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ドラゴン転生
13話「人生相談とドラゴン」 6KB
 

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「人間の生活の苦しみは、愛の表現の困難に尽きるといってよいと思う。この表現のつたなさが、人間の不幸の源泉なのではあるまいか」
【太宰治】

妖精娘のアイスと出会って一年以上の月日が流れた。
記念に指輪をプレゼントしたいのだが……金を稼ぐのは辛い。
訪れた国で、50回就職面接を繰り返しても――私は仕事を得られなかった。(国籍ないから就職できなくて当たり前だと後で気づいた)
だからっ!
いっその事、自分が人間から崇拝されるドラゴンである利点を生かして、広大な広場で、人間相手に人生相談の仕事をやる事にした!
アイスが少し離れた場所で宣伝してくれるから、じゃんじゃん客が来る!

「皆ぁっー!ドラゴン様の人生相談だよぉー!
料金はたった金貨1枚!
どんな悩みも解決しちゃうよー!
料金は僕に前払いしてねー!」

宣伝のおかげで、すぐ客が来た。
50代男性、真っ黒のスーツを着こなし、人生に疲れた雰囲気を、顔から醸し出す大統領閣下がやってきて――

「ドラゴン様!
ワシは今悩んでおるのです!
やるべきか!やらないべきか!」
「いきなり最重要人物が人生相談しに来たっ!?
一体、何に悩んでいるんだ!」
「国政に関する事ですので、詳しい事は言えませんが……国民を苦しめまくって国を助けるべきか、発行している紙幣の価値を無価値にして借金を帳消……げふんげふん――国民に無一文の生活を強いるべきなのか、どちらを選べばいいのか分からないのです」

責任が重すぎるだろ!
金貨1枚で、人口2億人ちょっとの国の運命を決めろとか……責任重大すぎる!
でも、客観的に見れば、どっちの選択肢が正しいのか私にはわかったぞ!
威厳たっぷりの口調でこう言えば良いんだ!

「前者の道――国民を苦しめまくって、国を助ける道を選ぶべきだと私は思う。大統領閣下」
「やっぱりドラゴン様もそう思われますか!」
「後者の道――無一文の生活を国民に強いるよりは……マシな選択肢なんだろう?」
「はい!そうです!我が国はこれで救われるかもしれません!
ありがとうございます!ドラゴン様!
このご恩はお忘れしません!」

そう言って、大統領はさっさとこの場から立ち去った。
……こんな短い会話で金貨1枚とかチョロイな。
さぁ、次のお客さんを相手するぞ!
次の相手は――背が低いエルフの女の子、足元まで届く銀髪と魔女娘ローブが印象的なリリーだった。

「わっち、相談したい事があるでありんす」
「おおーい!?
リリーは他の分裂体とネットワークを構成しているから、他の個体と相談し放題だろ!??」
「実はのう。
わっち、可愛いショタなエルフの美少年から求愛されての。
結婚しようかどうか悩んでおるんじゃ。
とっても良い男でな、わっちの心は……メロメロでありんす」
「わかったぞ!
リリーは私に自慢しに来ただけだな!」
「よく分かったの。
わっちは惚気話をするために、ここに来たんじゃ」
「惚気話のために金貨1枚も払ったんかーい?!」
「わっちだけ友達料金で、銅貨1枚で格安でありんす」
「安すぎるだろ!?リリーはアイスの所で惚気話をしような!」
「人生相談終わったら、わっちの家に遊びに来てくれると嬉しいのう」

そう言って、リリーはエルフ耳をピョコピョコ動かしながら――嬉しそうに場から去っていた。
それから次々とやってくる客達の話を聞き、私は頭を捻らせてアドバイス。
そうしている内に、人生相談が天職かもしれないと思った。
だから、次に来た――黒色の豪華そうなスーツを着た中年からの相談された時も、人生が上手く行くようにアドバイスしてやろうと、私は上から目線になって……違和感に気づかなかった。

「ドラゴン様!
私はもう嫌なんです!
毎日毎日、同じレールの上を走り続ける人生!
子供の頃から親に敷かれたレールを走り続け、会社に就職した後も、敷かれたレールの上をひたすら進むのが嫌になりました!」
「それは大変だな」

ふむふむ、誰かに決められた道を歩むのが嫌なのか。
ならば、こう答えれば良いな。

「レールの外にも道があると思えば良いんだ。
そうすれば選択肢が増えて、お前の人生は豊かになるだろう」
「!
さすがドラゴン様!
その発想はした事がなかったです!
レールから外れるなんて……楽しそうですね!」
「そもそも人生にはレールなんて物は存在していない。
お前が歩いた場所がレールになるのだ。
これからは自分が望んだ通りの道を歩め。
そうすれば失敗しても……後悔は少なくて済むはずだ」

こんな気の利いたアドバイスできる私……格好良い。

「ドラゴン様のおかげで、これから本当の人生を送れそうです!
レールから外れる!
レールから外れて外を走る!
ああっ!なんて素敵な響きなのだろう!」

男は元気を取り戻して帰って行った……。
人生相談の仕事良いな。
人のためになるから満足感が凄い。
プレゼント費用を稼ぐために人生相談を始めたが……これから行く先々の国でも、似たような事をやるのも良いかもしれないな。


★結果★

翌日、リリーの家に泊まった私は、アイスに変身の宝玉を使って貰って――10歳ほどの外見の緑髪の妖精に変身し、この国の新聞を一緒に読んだ。
その一面記事には、大きな見出しで、このような事が書かれていた。

≪電車運転手の凶行!?史上最悪の脱線事故!死者500人!≫

新聞に載ってる、運転手の顔……昨日、私が相談した男と同じだ。
なるほど、あの男が言っていた『レール』は、電車の線路≪レール≫の方だったのか。
そりゃ、私がレールから外れろ!なんて助言したら事故るよな……。
なるほどなるほど、納得納得……あー、言葉って奥が深いなぁ。
……
……
私は隣に居たアイスに抱きついて泣きついた。

「アイスっー!
私には人生相談の才能が欠片もないのかもしれない!
適当にしたアドバイスのせいで500人も死なせてしまった!」
「ドラさんは悪くないよ。
僕、ドラさんが頑張ったって知ってるもん。
こんな事になるなんて、誰も予想できないしね」
「でも、500人も死んでしまった!取り返しがつかない!」
「蘇生魔法あるから、大丈夫だよ」
「人の命が軽すぎる!?」

アイスが私の頭を手でナデナデしてくれた……なんだろう。
凄く癒されて……ヒモ生活している気分になる。
部屋にあるテレビの方では、昨日、私に相談してきた大統領の姿が映って、自信満々の顔で――

「ドラゴン様は言った!
我が国の財政難を救うにはこれしかないとっ!
ワシは空気税を作る!
これは空気を消費したり、空気を汚したり、空気を清浄化する森林を壊したら発生する税金っ!
借金だらけの財政を健全化するために、国民に多大な負担を強いるだろうが――ドラゴン様はこれを正しいと言った!
大義は我にあり!」

これを聞いて怒った私はドラゴンの姿に戻って、すぐに大統領に説教して、さっさとこの国から出た。
……人生相談はやめておこう。
私がやったら、政治的に利用されたり、不幸になる人間が多くなるだけの気がする……。


追伸  国民の皆さん、人生相談で迷惑かけてごめんなさい。



13話 人生相談とドラゴン
おしまい

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