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ドラゴン転生
プロローグ 〜Lv999な人生〜

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「世界は一冊の本だ。旅をしない者は本の最初のページだけを読んで閉じてしまうようなものだ」
  アウグスティヌス(キリスト教初代教父)


――私たち一人ひとりが旅をしている、この人生という広大な砂漠の中で。

というフレーズが思い浮かぶほどに、今の私の置かれた状況は可笑しかった。
なぜ、こうなった!
私はどこにいる!
この無限に広がる空は何だ!
ラーメン屋に先ほどまで居たはずなのに――感動するような青い空を、彗星の如く、私は落下していた!

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

突然の出来事だから、心臓が爆発しそうになるくらいに驚いた。
この空中落下に対処しようにも、所詮、私はただの人間(男)に過ぎない。
翼がない以上、落下死以外の選択肢はないだろう――そう思って高速落下していると気づいた事がある。
背中に大きな緑色の翼があった。
口の中に巨大な牙がある。
肌が翡翠のように輝く鱗だった。
長い尻尾がある。
私は気づいたら、人間からドラゴンになっていたのだ。
羽が生えているトカゲを見たことがないから、きっとドラゴンだろう。そう確信した――今はそんな事に悩んでいる場合ではない。
自由落下を阻止しないと、待つのは死だ。
翼があるなら、空を飛べる生き物のはず。
さぁ!翼よ動け!
翼をパタパタ……。
……
……
……
……残念っ!現実は甘くなかった!
翼の効率的な動かし方が分からぬ。
そもそも、これだけ巨体な生物が空を飛べるはずがない。
鳥が空を飛べるのは、飛ぶために脳味噌すら軽くした結果だ。
恐竜の場合は風を受けて滑空しているだけだ。
どうやら……私は自由落下で死ぬ運命なのか?

「ねぇねぇ、どうして羽に浮遊の魔法をかけないの?ドラゴンさん」

……私の頭の上に可愛らしい銀髪の少女が座っている事に気がついた。
氷の羽を背中から生やし、身に纏うエプロンドレスが可憐さをアピールしている。
明らかに人間というより、妖精と形容したほうが良い神秘的な姿をしていた。
私は少女に話しかけてみた。

「可愛らしいお嬢さん。
浮遊の魔法とは何ですか?」
「えー?
ドラゴンなのに知らないの?
今までどうやって生活してきたの?
ありえないよー」
「お願いだ。
お嬢さん。私に浮遊の魔法とやらを教えてください。
教えてくれたら何でもします」

少女は満面の笑みを浮かべて

「やだ」
「そこを何とか!」
「浮遊の魔法くらい自分で使えないようにしないとダメだよ?
空を飛べないと、この世界で暮らしていけないよ?
分かるかな?」
「このままじゃ私は落下して死んでしまう!
お願いだ!助けてください!」
「いや、死なないよ?
ここは空しかない世界【スカイ・ワールド】だからね。
浮遊する大地にでも衝突しない限り、死なないから安心してよ」

――ここが異世界?確かに下の方を見ても地面が全く見えない。
青い空と白い雲が何処までも続いて美しい。
そして、私は疑問を抱いた。
この少女の話し方に違和感がある。
まるで私が別の世界から来た事を知っているかのような口調だ。

「……可愛らしいお嬢さん。
一つ聞きたい事があるのだが」
「ドラゴンさん、何でも聞いてよ。
僕はドラゴンさんのパートナーだからね」
「パートナー?」

私の疑問に答えるために、少女は腰のカバンから、緑色の宝玉を出した。

「僕がこの竜の宝玉を使って、ドラゴンさんを異世界から召喚したんだよ。
ドラゴンって呼ぶと長いから、ドラさんって呼んでいいかな?
僕の名前はアイス・エターナルフォースブリザードだよ。
気軽にアイスって呼んでね」
「お前が原因かぁー!
人間の頃の身体を返せぇー!」
「えー?
ドラさんって、元は人間だったの?
僕のおかげでドラゴンになれて良かったね!」
「良くない!
誰が巨大なトカゲになりたいと思うんだ!」
「この世界じゃ、ドラゴンは崇拝の対象だよ?
どこを旅しても、国賓待遇でラッキーラッキーだよ?」
「人間としての尊厳は!?」
「そんなもん、人間の思い込みだと思うよ?
ドラゴンの方がお得じゃない」

私が何を言っても、この妖精娘――アイスは全く動じない。
なんという煽り耐性の高さ。
こんな状況だが、私は感心した。
きっと幼いなりに辛い人生を歩んできたのだろう。

「……アイス。
私を召喚したのは何故だ?」
「僕、故郷を探して500年ほど彷徨っているんだけど、1人旅が寂しかったのが理由かな?」
「おいっー!長生きしすぎ!
というか!召喚理由が身勝手すぎる!?」
「ドラさんもドラゴンになれたから超長生きできるよ!
良かったね!
水と空気と光があれば、生活できるから生活費タダだよ!」
「私が何を言ってもポジティブすぎる!?
しかも、人間の苦悩をよく理解している!?」
「……ドラさん。
人生はね。楽しくないとダメなんだよ」

そう言うとアイスは、ニパァーと可憐な笑みを浮かべ

「さぁ!ドラさん!
まずは自力で飛べるようになるまで落下し続けよう!」
「しかも!!教育方法はスパルタ形式!?」
「ドラさんなら、きっと何とかなるよ!
僕が信じるお前を信じろ!
そうしたらドラさんは口からブレスを吐けるよ!たぶん」
「え?!ひょっとして良い事言われてるのか!?」
「でも、ドラゴンブレスは浮遊島を一撃で破壊できるから、使っちゃダメだよ」
「威力強すぎだろ!」

こうして自由落下ライフが始まった。
空は綺麗なり、大きな雲が漂っていて美しい。
アイスのスカートが風で大きく動いてヒラヒラして――見えた。
緑と白の縞々模様が芸術的なパンツだった。
美しい。
いやいや、見ちゃ駄目だ。
女の子のパンツをチラチラ見るなんて変態だ。
……しかし、やはり美しい。
自然なパンチラに感動を覚える私だった。





★空の自由★

何日も何日も、私は青い空を落下し続けた。
幸い、頭の上にいるアイスが笑顔で話しかけてくれるおかげで、孤独は感じない。
この世界は不思議だ。
落下し続けても、地面に辿りつかない。
上にはちゃんと太陽が見えるのに、これは可笑しい。
重力もちゃんと下の方向に働いている。
夜もあるし、星々も見えるから、上には宇宙空間が存在するはずなのに私は何日も落下し続けている。
一体、どういう構造の世界なんだ?
時折、発見する空飛ぶ大地には、人工の建造物や湖が広がっていて美しいと思ったが、私は未だに飛べなかった。
アイスは楽しそうな顔で私の頭の上で踊りながら応援している。

「頑張れ!頑張れぇー! ド ラ さ ん !
頑張れ!諦めるな!諦めたらそこで人生終了だよ!
死んじゃうよ!」
「諦めたら殺す気満々!?」
「やだなぁー。冗談だよ、冗談。
妖精ジョークだよ。
僕は妖精の中でトップクラスの優しい女の子だからね。
魔法でドラさんを焼いて、ドラゴンステーキ食べたいなぁーとか、思ってないから安心してね。
あと1時間くらいは待つよ」

アイスが軽くウインクしてきゃぴっ!
うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
やばいぃぃぃぃぃ!!!
わざと心の中で叫んで冷静になっている場合じゃない!
早く飛べるようにならないと殺される!……かもしれない!
浮遊の魔法!翼にかかれ!かってくれ!お願い!
浮遊の魔法かかってくれ!
そう思って気合を入れたら――私の緑色の翼は力強く羽ばたき、自由に飛ぶことが出来た。
風を切る感覚。
青い空を自由に飛べる爽快さ。
人間では絶対味わえない空を飛ぶ特権。
何処までも続く雄大な大自然を駆け巡る楽しさ。
人類史上、初めて空を飛んだ人間になれた。
この栄光は、どれだけ富を積もうと得られない。
初めてドラゴンになれて良かったと、思えた。
アイスは私の頭からジャンプして、氷の羽を震わせて、私の隣に並んで飛んでいる。

「ドラさん、おめでとう!
人間もドラゴンも追い詰められたら頑張れるもんだね!
どう?
これが空を飛ぶ素晴らしさだよ!」
「ありがとう、アイス。
空を飛ぶとは……これほどに素晴らしい事とは知らなかった」

感動で涙が出そうだ。
色々とアイスのせいで失ったような気がするが、気分がとても楽だ。

「ドラさん!
僕と一緒に旅をするよ!
さぁ!あの夕日へと向けてレッツゴー!」

きっと、これからレベル999と表現しても良いようなハイクオリティーの人生が待っているに違いない――


名前:ドラさん
種族:妖精龍
職業:神様
Lv;999
討伐報酬:金貨1億枚

なんか、青色のステータス画面が空中に表示された。
まるでゲームみたいな画面だ。
まさか――この世界は!

「私はゲームの世界に入り込んでしまったのか!?
そういえば、昔、ネットゲーをやっていたような――」
「ドラさんー。1人ツッコミやる前に、ここから移動した方が良いよー?
ドラゴンのスペックなら、人間の軍隊が攻めて来ても大丈夫だろうけど、まだそのドラゴンの身体を使いこなせてないから、死ぬかもしれないよー?」
「怖っ!このゲーム世界怖いなっ!」
「いや、その画面が表示されてるのはね。
ドラゴン狩って金儲けしようとしている過激な団体・国家が近くにいて、殺そうとすると素振りを見せたら自動的に画面が表示される魔法――あ、遅かったみたい」

大量のミサイルが雲を突き抜けて、こちら側にやってくる光景が見えた。
一瞬、現実とは思えない事態に唖然としていると――

「ドラさん!
あのミサイルに向けて絶滅神龍波《ドラゴンブレス》だよ!
「え!?今の私は、土壇場で真の力に覚醒する主人公ポジション!?
しかも、なにその怖い漢字!?」
「ツッコミ入れるより攻撃した方が良いと思うなー」
「確かにそうだ!」

ミサイル群は内部から大量に小型弾頭を射出して、何千、何万という数の爆弾が近づいてくる。
空を埋め尽くす圧倒的な殺意。
人間だったら確実に死ぬ物量。
私はとりあえず、適当に体中の力を集めて、口から巨大なエネルギーっぽいものを吐いた――ズガァーン!

「ドラさんの初絶滅神龍波《ドラゴンブレス》だね!」

圧倒的なエネルギーの塊――絶滅神龍波《ドラゴンブレス》は何万という数の小型弾頭をエネルギーの余波で根こそぎ破壊し尽くし、進行方向にある雲を全て消滅させて青空に変えた。
想像できるだろうか?
絶滅神龍波《ドラゴンブレス》とかいう謎の巨大ビーム攻撃で、広大な空が大変貌して真っ青な青空になる光景を。
核兵器よりもやばい何かを感じた。

「絶滅神龍波《ドラゴンブレス》……威力ありすぎだろ!?」
「浮遊島にぶつけたら、10億人が住めるサイズでも壊れちゃう威力だからね。
そりゃそうだよ。
雲の先に、ミサイル撃ってきた大艦隊とかあったんだろうけど……凄い熱で気化蒸発して全部消えちゃったぽい?」
「これが今の私なのか……?」

絶滅神龍波《ドラゴンブレス》は可能な限り使わないように気を付けよう。
色んな謎があるが……私は異世界で大量殺戮者になってしまった。
どうしよう。
正当防衛だから無罪で良いのだろうか?


☆恐怖の竜神☆

ワシは、ドラゴン出現の知らせを聞いて出撃した反ドラゴン超連合軍10万隻――その遥か後方に配置された補給艦の艦長である。
今回の戦は、世界最強と名高いドラゴンを倒して存在そのものを否定し、この世界の覇権を握るのは『我々、人間だ!』という事を証明しようとしたのだが――

「艦長っー!本隊消滅!恐らく、気化蒸発して何も残っていません!」
「衝撃波やってきまーす!」

10万隻が一瞬で消滅した現場を見たはずなのに……ワシには現実味が全くなかった。
ありえない。
我が軍は、先手を打ち、ドラゴン目掛けて核弾頭を搭載した多弾頭ミサイルを撃ったはずなのに……ドラゴンの反撃でミサイルごと艦隊が消滅していた。
まるで……我々が長年かけて築き上げた努力を、鼻で笑って、全て否定するような、そんな馬鹿げた光景だ。
我々が集めた史上空前絶後の大艦隊は――ドラゴン、いや、ドラゴン様から見れば、蟻の群れに過ぎなかった!
そういう事なのだ!
10万隻が消滅したのは天罰だったのだ!

「ドラゴン様!万歳!」

ワシは遥か遠くにいるドラゴン様に拍手を送った。
絶対に抗えない存在を見た事で、恐怖心とともに服従する道を選ぶしかなかった。
今回の大敗北で、連合国の世論で反ドラゴンを支持する馬鹿は1人も居なくなるだろう。
冷静に見れば――こちらから神に無謀にも喧嘩を仕掛けて、返り討ちにあった。
ただ、それだけの事なのだ。
……だが、神は非情。
10万隻を消滅させたエネルギーの余波がここまで到達してきて、ワシの居る補給艦隊を巻き込み、一瞬でワシと大勢の軍人達は、軍人達は――

ドカーン!

 

 
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会社からの帰り道、目の前に霧に包まれたラーメン屋があった。
ふと、興味を惹かれて店の暖簾を潜ると……お客さんの姿は私以外、誰もいなかった。

「へい、らっしゃい」

店長がカウンターの向こう側に立っている事はわかったが、白い霧に包まれて顔が見えない。
さて、この店ではどんなラーメンがあるのだろうか?
カウンターの椅子に座ってメニューを見てみると……あ、これはやばい店だなと思った。

【妖精龍】【水龍】【火龍】【黄金龍】【黒龍】

「おおーい!まともなメニューがない件!?
お前、本当にラーメン屋か!?」
「妖精龍メニューが今日のオススメでさぁ」
「一体、どんなラーメンなんだよ!」
「妖精龍を選ぶと、今なら可愛い妖精娘もついてくるんでさぁ」
「コ」







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