師匠がベットの上で横たわり、布団をめくりあげて隣を私のために開けています。
ど う し ま し ょ う 。
緊張して私の心臓が激しく脈動しているのです。
これ、明らかにエッチぃ事をする前の雰囲気ですよね?
服……ワンピースドレスを脱いだ方がいいんでしょうか?
それとも服を着たままベットに入った方がいいんでしょうか?
下着は白色なんですけど、師匠の好みですか?
あー!こういった事に対する経験が薄くて、こういう時、困る事ばっかりなのです!
こうなったら何も考えずに、ベットに入るしかありません!
でも、一応、こういうことをする前の礼儀として、言っておかないといけないことがあるのです。
「し、師匠」
「なんだい?
ヴィクトリア」
「は、初めてなので、や、優しくしてくださいね?」
「ああ、優しくするよ。ヴィクトリア」
や、やっぱり、薄い本みたいな事をする展開なんですね。
師匠が結構、女性慣れをしていてショックなのです。
独身なのはひょっとして、色んな女性と付き合うプレイボーイだったりするからですか?
これは結婚後に不倫とかされて苦労するタイプの男性?
ゆっくりゆっくり歩いて近づいて、私はベットに横たわりました。
すぐ目の前には、師匠がいます。
これからどうなるんでしょ?
やっぱり若い男女がベットでやる事と言ったら、あれですよね?
あ、し、師匠の手が伸びてきました。
手が、手が、わ、私の、た、大切な所に伸びてきて、サワサワ触れています。
何度も何度もサワサワ。
そこに躊躇いや容赦はありませんでした。
師匠の手は、私の大事な……大事な……金色の髪を撫で撫でしています。
あれ?
「ヴィクトリア。
実は僕にも人間みたいな趣味があってね」
「はい?」
「エルフの女の子の頭を撫でるのが好きなんだ。
精霊のおかげでフサフサしているからね」
……師匠、こういう人でしたよね。
そりゃ独身生活900年近く続けてしまう訳ですよ。
普通、若い男女がベットに入ったら、出来ちゃった婚ですよ。出来ちゃった婚。
私が師匠と深い関係になるまで、あと何百年必要なのですか?
でも、今はこれで良いと、頭を撫で撫でされて思いました。
焦る必要はないのです。
好きな人と一緒に入れる、これだけで私には贅沢なのです。
ほとんど抱き合って寝るに等しい状態ですし。
師匠も男ですから、きっと間違いって奴が起こると思います。
あー、好きな人と一緒に寝るベットは気持いいのですー。
ベットは最高ですー
あっー眠くなってきま
いつの間にか眠ってしまって朝起きると、師匠が先に起きて、私の頭を撫で撫でして、変な事を一切していませんでした。
師匠には、女の子のお尻や胸に触りたいという欲求が根本からないのかもしれません。
「やぁ、ヴィクトリア。
グッスリ眠れたかい?」
「はい…すごく久しぶりのべットは気持ちよかったのです」
「それは良かった。
お金を払ったかいがあるね」
この時、浮かべた師匠の笑顔が素敵でした。
なんて言えばいいんでしょうか。
とっても爽やかで裏がない笑顔なんです。
最近、師匠が欲を持たない聖人っていう名前の生き物に見えてきました。
どうすればお嫁さんになれるのか分からないのです。
時間をかけて仲良くなるくらいしか、私には手段が思いつきません。
「さて、ヴィクトリア。
今日も国のあちこちを散歩しようか?」
こういう散歩が大好きな素敵な男性と結婚したいなぁーと思うのですが、結婚までの道のりはまだまだ遠かったのです。
師匠が服装をパジャマから、いつものジャケットとズボンに変身させて、私と一緒に部屋を出た後、この街を観光するために階段を降りると、たくさんの洗濯物を抱えた宿屋のオバサンと出会いました。
オバサンは私の顔をみて満面のしわくちゃの笑みを浮かべて
「昨晩の二人さんアツアツな夜だったかい?
若いもんはいいね!」
「ええ、楽しい夜だったのです」
「あらやだ!あらやだ!
若いって本当いいわよねー!
あんたを見ていると私の若い頃を思い出すわ!
妊娠したらちゃんと責任取ってもらいなさいよ!
男は逃げるのが得意だからね!
やり逃げは絶対許しちゃ駄目だよ!」
まぁ、私の一方通行ですけどアツアツな夜でした。
なんかオバサンが見当違いな事を言っているから、逆に気分が冷めてきましたよ。
もしも、男女の仲になれた後にこれを言われたら恥ずかしさで一杯なんでしょうけど、華麗に全部スルーされちゃった事を思い出すから、ゆっくりできないのです。
こうなったら、軍事オリンピックを見て気分を誤魔化すしかありません。
今日はどんな競技をやっているのか、すごく楽しみなのです。
師匠と片手をつないだまま、宿の外に出て狭い道を歩いて大通りに出ると、試合を中継してくれる巨大な薄型軽量モニターが街頭に設置されていて、今日やる競技の一覧が映し出されていました。
●一昨日終了した競技
無人戦闘機バトル競技 優勝キメリカ国
無人ステルス戦闘機バトル競技 優勝キメリカ国
無人爆撃機による戦略爆撃競技 優勝キメリカ国
無人戦闘ヘリバトル競技 優勝キメリカ国
無人戦闘マルチコプターバトル競技 優勝キメリカ国
●昨日終了した競技
無人戦車バトル競技 ダブル優勝キメリカ国、キャイナ国
無人空中戦車バトル競技 優勝 キイツ国
無人駆逐戦車バトル競技 優勝 キイツ国
無人多脚歩行戦車バトル競技 優勝 キイツ国
●今日
鬼人掃討作戦
あれ?今日やる競技は鬼人掃討作戦だけ?
これだけ他とは違う扱いなのです。競技の名前すらなく、作戦と付いている時点で可笑しいんです。
一体、何の競技なんでしょうか?
まぁ、あと2時間待てば、試合開始時間ですから、それまで師匠との散歩を楽しむとしましょうか。
なにせ祭りですからね。祭り。
大通りにはたくさんの屋台があって、美味しそうなのです。
さぁ!楽しいデート始めますよ!と思ったら、師匠の顔がシリアスモードでした。
「ヴィクトリア。
かなり強そうな魔族がこちらに来ているから、少しの間、光学迷彩やバリアーを展開して、何処かで待っていてくれないかい?」
「え?魔族がいるのですか?」
「実は、この国に到着した昨日から、僕が風の精霊で見つけた魔族を片っ端から風の刃で殺し回ったから、そいつらのリーダーが怒って、こっちに部下を大量に引き連れて飛んできているんだ。
それも強さは魔王直属の将軍級の魔族、だからヴィクトリアを守りながら戦うのは無理そうでね。
どこかに隠れて待って欲しいんだよ。
最悪の場合は、この国が戦場になる」
師匠、あなた私と仲良く散歩したり、ベットに居ながらそんな器用な事をしていたのですか。
わかったのです。わかったのです。
魔族を倒した方が安全に散歩できますし、私は隠れているのですよ。
「なら、私は光学迷彩を展開して、何処かに隠れる事にするのです。
師匠、どうか気をつけてください」
「ああ、将軍級は少し辛いが、遠距離戦闘に持ち込んで戦っている最中だからきっと帰って来れるよ。ヴィクトリア。
僕には君の保護者としての義務があるからね」
そう言うと、師匠の片手が私の頭を優しく撫でた。
師匠、これ死亡フラグじゃなくて、生存フラグですよね?
絶対に生きて帰ってきますよね?
死んだら嫌なのですよ?
「あと、ヴィクトリア。
この国と周辺国は狂っているから気をつけるようにね。
競技に参加しているのは無人兵器じゃない。
もっと恐ろしい物だ」
「はい?」
師匠は私に返事を返さず、光学迷彩を展開しながら空へと飛んで行きました。
うーん、なんでしょう?
無人兵器なのに無人兵器じゃない?
つまり、兵器の中に人が乗っているんですかね?
私、平凡な発想しかできないから、推理はちょっと……そういうのは周りで殺人が毎日のように起こる名探偵の仕事だと思う訳です。
とりあえず、軍事オリンピックでも見れば、答えが思いつくかもしれません。
人通りが多い歩道でバリアーなんて展開したら、たくさん人を殺してしまうので、適当にそこらへんにある店に入って、バリアー展開すればいいですかね?
あ、あの屋台リンゴ飴売ってますよ!
あれを買って、どこかの建物の屋上でペロペロ舐めるのです!
光の精霊さんが一番大量にいるのは屋外ですから、屋上が隠れるのに一番良い場所な気がしましたよ!
『さぁ!今日は軍事オリンピックの目玉!
鬼人掃討作戦が始まるよ!
皆!楽しんで待っていたかぁいー!』
「「「「「いぇーい!」」」」」
大勢の人間さんが喜んでいるようで何より。
いやー、いいですねぇー。
こういう祭りの雰囲気。
結局、私が選んだ場所は、3階建てのビルの屋上です。
立ち入り禁止と書かれた障害物が途中にありましたし、ここに光学迷彩を展開したから完璧なのです。
20mほど離れた場所に巨大モニターがあるから大会も視聴できて便利。
あとは屋台から買ってきたリンゴ飴が3個あるから、それらをペロペロ舐めながら大会鑑賞なのです、ペロペロ。
どんな競技が始まるのか、紅くて美味しいリンゴ飴をペロペロして楽しみながら画面を見ていたら、いきなりモニターの向こうのモヒカン頭の司会さんが
『やっぱり鳩は焼くに限るね!
鳩は炎で焼き鳥だぁー!』
「「「「「いぇーい!鳩は炎で消毒だぁー!」」」」」
平和の象徴ハトを数匹、火炎放射器で燃やして、胡椒かけて食べていました。
あれ?
なんか雰囲気が可笑しくなりましたよ?
オリンピックで鳩を燃やすなんてありえないのです。
いや、現実のソウルオリンピック辺りではそういう不祥事がありましたけど、基本的にやってはいけない事なのです。
『このオリンピックが初めてというお客様もいるはずだから、鬼人掃討作戦について説明するよ!
鬼人は一般常識だからわかるよね?
殺人などの極悪犯罪を犯した犯罪者や、その子孫達の事さ!
極悪犯罪者と、その子孫に人権はないっていう理屈は、子供にも簡単にわかるよね!
鬼人掃討作戦はそいつらが住む鬼人収容地区で行われる!
各国のチームは無人兵器部隊を使い、1日の間にどれだけ鬼人を殺せるかっ!を競い合う競技!
さぁ!どの国の無人兵器部隊が優勝するかな?
昨年の優勝国はエター国だよ!
でも、運に左右される競技だから、どの国が優勝するかは誰にもわからない!
皆も優勝すると思う国にお金を賭けて目指せ!一攫千金!』
はあっ?!
なんですか!?これは!?
無人兵器で人間を殺す!?
しかも犯罪者の子孫を殺すとか、それって酷過ぎです!
子孫まで罰するのは可笑しいのです!
でも、ここでは私の常識が非常識。
国中にいる観客達は心から満足したような笑顔で
「「「「鬼人は死ねー!鬼人は死ねー!鬼人は死ねー! 」」」」
「「「「クズを殺せー!クズを殺せー!クズを殺せー! 」」」」
「「「「ゴミ!ゴミ!ゴミ!ゴミ!ゴミ!ゴミ!」」」」
「「「「鬼人の血を絶やせー!絶やせー!犯罪者に生きる価値なしっー!」」」」
……師匠。
早く魔族倒して戻ってきてくれませんか?
キチガイだらけで心が辛いのです。
モニターには、各国の最新鋭兵器が次々と紹介されましたが、先ほどの格好いいという印象は、今の私にはなくなっていました。
誰も死なない平和な軍事オリンピックだから楽しめていたのに、大量虐殺が平然と競技内容にある時点で残念すぎるのです。
『必要ないと思うけど禁止兵器を言うよ!
まずは一つ目は衛星兵器【神の杖】、核兵器などの大量破壊兵器!一瞬で鬼人を皆殺しにできるからね!
二つ目は戦闘機と爆撃機!戦略爆撃だけで競技が終わったら興ざめさ!
三つ目は化学兵器!毒ガス使ったら、一瞬で鬼人を皆殺しにできちゃうからね!
ルールを守って楽しく鬼人掃討作戦!開始っー!』
その言葉とともに、各国の無人兵器が、鬼人の収容地区で虐殺を開始しました。
戦車だけで合計1万を越す大軍とモニターで字幕で表示されています。
私じゃ止められません。
ただ、モニターを見てるだけ。
それ以前に、私はどこに収容地区があるのかすら知らないのです。
収容地区の周りは、モニターを見る限り、フェンスと地雷原で取り囲まれた内陸部。
廃材を利用して建てられた小さな家々が、次々と雨のように降ってくる戦車の砲弾によって破壊され、鬼人達が殺されています。
鬼人達は必死に家から飛び出て逃げようとしますが、戦闘用ヘリによる何kmからも離れた所からの機銃掃射でバラバラ。
誰一人、逃げ延びる事もなく、死体になって死体になって死体になって死体だらけ。
子供を守ろうとする母親は、子供ごと砲弾でグチャグチャの死体。
地形が変るほどの砲撃で、先ほどまであったボロボロの家々はガレキの山すら残らない。
頭から飛び出た目玉がゴロンと転がって、カメラを見て……もういやです。
師匠、早く帰ってきて。
これが……本当に……人間のやる事なのですか?
『おっとー!
作戦開始10分で鬼人の生命反応がほぼ皆無になったぞぉー!毎回、鬼人を養う経費削減のためにほとんど皆殺しにしているから鬼人の数が今回は1万人ちょっとしかいなくて困ったね!
まぁ、鬼人が出ない方が平和で安全な社会という意味だから仕方ないけどさぁ!
でも、次のオリンピックでは戦車の砲弾を禁止した方が楽しいことになりそうだね!
さぁ!映像を確認してどの国が何人殺したのかを判定する作業を開始するよ!』
モニターに映し出されたのは、先ほどの虐殺映像。
公正を期するために、テレビで放映しながら、どの国が何人殺したのか、順番づつカウントされています。
『この砲弾は最高にクールだぜ!
家ごと内部にいる鬼人の家族を殺しているからキリア国に四点追加!』
なぜ、そんなに残酷で居られるんですか?
あなた達は人間ではないのですか?
『この戦闘ヘリの機銃掃射の性能は最高さ!
掃射して鬼人を10人ぶっ殺している!クール!
キャイナ国に10点追加!』
師匠、早く帰ってきてください。
この国にいるのは人間じゃありません。
魔族と何ら変わらない獣です。
『なお、これらの映像はキメリカ国が最近開発した戦闘用マルチコプターから撮影された映像だ!
ヘリコプターと違って、4つを超える数のローターを搭載した回転翼機を使い、カメラをあまり揺らさずに撮影できるから軍事オリンピックはますます盛り上がる!
お客様!賞賛してあげてください!』
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
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たくさんの、大勢の人間の拍手が周りに響きました。
みんな、みんな、この悲惨な映像や兵器を見て喜んでいます。
「おめでとう!」「すごいわ!」「おめでとう!」「おめでとう」
「今回の軍事オリンピックの映像が素晴らしいと思ったらそんな素晴らしい事になっていたのか!」
「おめでとう!」「おめでとう!」「感動したわ!」「こんな素晴らしい映像におめでとう!」
何がおめでとうなのですか?
人が……人がたくさん死んでいるんですよ?
あなた達は自分達が何をやったのか理解しているのですか?!
後編に続く
あとがき
実際のオリンピックの印象に残ったネタも使わんとあかんなーと思ってソウルオリンピックネタ使った。
内容的にもぴったり。
伝説のソウル七輪ピック
http://suliruku.blogspot.jp/2014/07/1988.html
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