ゆっくり戻るよ!
ゆっくり前に戻るよ ゆっくり次に進むよ! 
Lv40「人類最強 VS 世界最強」後編

カウンター日別表示 

時間は停止している。空間は壁のように固くなって動かない。
だが、ボンドーの心臓はドクンッドクンッと脈動している。
中途半端に体内だけ、時間停止が解除され、残り少ないエネルギーを消費していた。
空気を吸おうにも、新鮮な空気は肺に入ってこない。
それ以前に、唇一つ動かない。
だが、不思議な事に――

「むぅ……また、時間が停止しているな……アトリが何か実験しているのだろうか?
それとも共産国の暗殺者のせいなのだろうか……?」

呑気そうにしているワルキュラの声が聞こえた。
音とは振動。空気が振動しない世界で、ワルキュラの声だけが響くという現実は、異常すぎる――ボンドは激しく動揺した。

(なぜ、普通に声を飛ばせるんだ!?
時間が停止しているから!空気も動かないはずなのに!
なぜっ!俺の耳が音を捉えているんだ!?
俺の作ったプログラムではありえない!)

ボンドーが作った時間停止プログラムは、偶然、誕生したものだ。
バグだらけのプログラムを起動したら、術者が呼吸を止めている間は周りの空間が止まるという具合に、現象が起きているが――どうやって、時間を停止しているのか、今までボンドーは考えた事がない。
時間を支配するという行為そのものが、人智を超えすぎて、理解しようという意欲すら湧かなかったからだ。

「ふむ、今日のルビーのパンツは、紫と黒の縞々模様か。
中々にアダルトな下着だな……やはり大人の女性なのだな……」

よく見たら、ワルキュラがルビー皇后の黒いスカートをナチュラルにめくっていた。
美しい紫と黒の縞々パンティーが、幼なさを残す銀髪巨乳娘の大事な場所を防御している。
ボンドー的には女性は全裸が一番美しいから、下着なんぞ、どうでも良かった。
それよりも重要なのは――

(なぜ!?平然と動ける!?)

ボンドーは、時間停止中のタバコBARで、ワルキュラが自由自在に動き回っている現実を認めたくなかった。
空気は壁と化しているはず。
そもそも、ワルキュラがスカートをめくれる距離にいるのに、ルビー本人は時間停止の影響を完全に受けて、楽し気に微笑んでいる姿で時間がストップしている。
ボンドーが使うのと同じ時間停止ならば、あそこまで近づけば、時間停止が一部解除されて、ルビー本人に恐ろしい悪影響が出るはずだ。
肌だけが時間停止を解除されたら、栄養を供給されなくなった細胞が壊死する。
脳味噌ならば、酸素の供給が止まり、死ぬ。
血管だったら、血液が凝固して固まる。
なのに――ルビーの肌には、全く、それらの影響が見られない。
ワルキュラがスカートめくったり、頭をナデナデしたりしているのに、ルビーの細胞は壊死してないのだ。

「さて、どうするべきだろうか……。パンツを見ている場合ではないな……。
この酒場にいる奴で怪しいのは……ん?
なんだ、このデュラハンの中にいる人間は?」

当のワルキュラが――ボンドーの隣まで近づいて来た。
恐ろしい史上最悪の大魔王が、彼の顔を覗き込んでくる。
黒い鎧の中に、人間が隠れている事がばれているようだ。
おかげで、激しく心臓が脈動し、残り少ない酸素を消費してしまう。

(ぎゃぁぁぁぁ!!殺されるぅぅぅ!!
俺が犯人だとばれたらぁあぁぁぁ!!!
殺されてぇぇぇぇ!!
ドリームランドで、もっと酷い目に会わされるぅぅぅ!!)

もう、駄目だ。
時間停止は完全に、大魔王ワルキュラに破られてしまった。
命を奪われるのを待つのみ――そう、ボンドーが考えていると

「よく見たら、デューそっくりの鎧だな。
年末の宴会芸の練習でもしているのか……?
デューと見せかけて偽物でした!という展開で、聴衆を驚かせる気だな……うむ」

ワルキュラが、平和ボケした発言をしてきた。
どうやら、アンデット達を驚かせるために、デュラハンの中にボンドーがいると思い込んだようだ。
助かった。人類最強の暗殺者だとばれていない。
もう、時間停止が解除されたら、田舎に帰ろう。
大魔王と戦うなんて無謀すぎた。蟻が太陽に挑むのような馬鹿げた行いだ。
毎日、神殿に行って、タバコをお供えしてワルキュラを至高神と崇めて崇拝しよう。
その方が良い――とボンドーは思ったが、現実は超厳しかった。

「犯人が誰か分からなくて困ったな。
手当たり次第壊す訳にも行かないし……。
本当に困ったなぁ……」

わざとらしい、ワルキュラの口調。
嫌な――予感がした。

(もしかして……俺が犯人だとばれてる……?)

「一体、誰が……犯人なのだろうなぁ?」

しかも、ワルキュラは、ボンドーの思考を完全に読み切っているようだ。
ますます心臓が脈動して、酸素を消費する。
完全に嬲り殺しする気だ。
残り少ない酸素を完全に消費させて、窒息死に追い込むつもりだ。
そうだ、よく考えてみれば、この時間停止に使うエネルギーは、帝国のプログラミング魔法と全く同じ。
すなわち――ワルキュラの無限の魔力。
ボンドーは今まで全く気付かなかったが『ワルキュラから力を借りて、ワルキュラを殺そう』としていたのだ。
無謀以前に、無知。
無知は罪なり。
蟻と太陽が勝負するレベルではない。
蟻と宇宙(ワルキュラ)が、戦うような無謀な戦いだったのだ。
あの世を作り出した創造主の力を舐めきっていた報いだ。

(お、俺はなんて偉大なお方に喧嘩を売ってしまったんだぁぁぁぁ!!
許してくださいぃぃぃ!!!
ワルキュラ様ぁぁぁぁ!!!)

返事はない。呼吸が出来なくて苦しい。

(お、俺、いえ、私めの思考を読んでいらっしゃるのでしょうぉぉぉぉ!!!?
お願いですぅぅぅ!!助けてぇぇぇぇ!!
もう二度と暗殺なんてしませんからぁぁぁぁぁ!!)

返事はない。残りの酸素は少ない。
身体が徐々に熱くなっている。
ワルキュラから引き出した魔力が、ゆっくりとボンドーの身体の中に浸透しているのだ。
柔らかい人体なんぞ、粉々に砕けて爆発するような、そんなエネルギーが、集まりつつある。
どう見ても、悪の帝王ワルキュラが自分を誅殺する気満々だ。命が危うい。
必死に懺悔して、今までの行いを悔いて許してもらう以外に選択肢はない。

(ワルキュラ様ぁぁぁぁぁ!!
わ、私が悪いんじゃないんですぅぅぅ!!!
フリーザ共産国の連中が悪いんですぅぅぅ!!
小さい娘が好きならぁぁぁ!!スター主席をプレゼントしますからぁぁぁ!!
助けてぇぇぇぇぇぇぇ!!!
あいつらがぁぁぁぁぁ!!あの紅い大魔王が全ての元凶なんですぅぅぅぅ!!)

やはり、返事は帰ってこない。
沈黙を保ったワルキュラは、ルビーをお姫様抱っこして、タバコBARの階段を登っていく。
その大きな後ろ姿を見て『貴様は既に死んでいる』と、ボンドーはワルキュラに言われた気がした。

(そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
ワルキュラ様ぁぁぁぁぁぁ!!
見捨てないでぇぇぇぇぇぇ!)

全身から、溶岩のような熱が吹き出す。
酸欠寸前になった脳味噌は苦しみを訴えた途端――時間停止は解除された。
ボンドーは跡形もなく、タバコBARの狭い部屋ごと大爆発。
デスキングを含めたアンデット達を巻き添えを喰らい、その魂はドリームランドへと旅立った。




三章エピローグに続く



 

その大きな背中を見て『貴様は既に死んでいる』と、ボンドーはワルキュラに言われた気がした。


ワルキュラ「俺も既に死んでいる!アンデットだから!」

ゆっくり戻るよ!

ゆっくり前に戻るよ ゆっくり次に進むよ! 

7 件のコメント :

  1. ´・ω・`)ゆっくり修正完了

    ワルキュラ´・ω・`)今回も勘違い要素たっぷり

    返信削除
  2. 時間停止の概念ってどうなってるんだろうな
    全てが止まってるなら数ある銀河全てとまってるってことだし
    惑星だけ止まってるのなら星間での運行がおかしくなってるから
    酷くヤバい状況が維持された状態ってことだし
    そうなると歪で微妙なバランスで成り立っている
    そんな星星の引力間問題に支障をきたして
    惑星の電子運動のような行動そのものが破壊されかねないと思うんだけどな

    返信削除
    返信
    1. (´・ω・`)答えは簡単

      ご都合主義(´・ω・`)全宇宙を支配しているに等しい 圧倒的な何か

      削除
    2. フォトンって大昔の作品の第2ヒロインは、
      一定範囲の時間を停止できるが、自分も止まってしまう。
      ただし、理屈は不明だが思考はできるから始末が悪い。
      自分では解除できないのも間抜け。
      年下の幼なじみである主人公はその能力に影響されない。
      だから主人公が頭をぶん殴って止めるのがパターン。
      ちなみに自称美少女でほれっぽい振られ女の14歳。

      削除
    3. ヒロイン(´・ω・`)つまり、その人としか結婚できないって事よね!

      削除
    4. 素直じゃないけど、実は主人公に惚れてるので問題なし。
      なお主人公が10歳ってこともあるけど、ヒロイン3人全員年上。
      正ヒロインは870歳くらいだった(700年ほど寝てるけど)。
      ただし主人公のいる辺境部と違い銀河中心部では長命なので、
      170くらいは青春まっっしぐらの模様。
      第3ヒロインは、正ヒロインと取り替えられたってくらいだから、
      同年輩と思われる。
      こっちは眠ってないが、それでも若い美女って扱い。
      ちなみに初恋の人は第2ヒロインのかなり年上の姉。
      なお、ヒロイン3人ともちゃんと守りきってるところが、
      某黒いコックさんとの違い。
      最終話で洗脳された正ヒロインを愛の力で奪還。
      その後別人(ちなみにトカゲ男と中の人は同じ)に
      さらわれたが自力で奪還。

      削除
  3. これ時間停止じゃなく時間位相のズレを作ってもぐる技術の類と思う、ワルキュラが巻き込まれる形は不自然に感じたかな・・・・

    ジョジョネタのみならずスレイヤーズまで入れたな!
    つまり・・・ワルキュラの死亡フラグだな、最後は見事にそれで滅んだしな!
    実際、エネルギー源を自分で破壊とか珍しく無いし(`・ω・´)キリッ



 


  • ブログパーツ