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Lv38「人類最強 VS 世界最強」前編


活動報告時のタイトル  人類最強 VSワルキュラ
 


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そこは帝都の遥か地下にある小さなBARだ。洒落たインテリアに囲まれていて高級感で溢れている。
しかし、そこに充満する匂いはアルコールではない。
タバコの煙だ。それも上質の麻薬を使ったアンデット用のタバコが煙を上げ、場の空気を汚染している。
人間がこの場にいれば、中毒症状に陥って一時間以内に死ぬ。
そんな環境に一人の人間が居た。
大きな黒鎧で全身を包み込み、口と鼻にガスマスクを着けている男だ。

(アンデット用の施設に潜り込むだけで死にそうだ……。
これが死者が暮らす世界の……日常か?)

男の名はデュー(仮)。他に名前があるが、変装任務中はボロを出さないために自分で自分に暗示をかけている。
決して、共産国の凄腕の破壊工作員ミスター・ボンドーではないのだ。
アトリ式プログラミング魔法を自分なりに改良し、時間停止プログラムを奇跡的に組み上げた男なのだ。
このミスター・ボンドーという金髪の青年は――

(自己暗示が溶けてしまった……。
こんな所でアンデットの振りをしたら死んでしまう……)

このタバコBARが、致死物質に満ち溢れているせいで、危機感を感じて暗示が解け、演技が不完全なものになりそうだ。
可能ならば、ボンドーはこの場からすぐ離れたい。
だが、それは出来ない。
ようやく、悪の帝王ワルキュラを暗殺するように、スター主席に命令されたのだから。
任務を見事に達成すれば、全世界が自分を賞賛する事だろう。

(あの銀髪のチビに生き地獄を味わせてやるぜ……)

ワルキュラを倒した後は、その名声を利用して、共産国でクーデターを起こし、権力を掌握し、スターに『文化破壊者』の汚名を着せて兵士達どもにプレゼントすれば良い。
きっと、一日であの小さくて生意気な合法ロリは、陵辱され尽くして死ぬ事になるだろう。
……そういう外道な妄想をしないとやっていけないくらい、周りの空気は麻薬成分たっぷりすぎて、ボンドーには辛すぎた。
このまま待ち人に、待たされ続けたら、アンデットだらけのタバコBARで死体になってしまいそうだ。

「デュー殿、遅れて申し訳ない」

声がした。入口の階段に一人の骸骨が立っていた。
高級感が溢れる黒い軍服を着ていて、胸に大量の勲章を付けている。
ワルキュラの側近中の側近にして、陸軍の最高権力者デスキングだ。
ボンドーが変装しているデューという人物と、長い付き合いがあるらしい。
デューが軍を退役した後も、たまに二人は会っているそうだ。

「こうやって再会するのは、50年ぶりですかな?」

デスキングの言葉に、一瞬、ボンドーは時間感覚の違いに動揺して、激しい呼吸をしそうになった。
デュラハンは生物ではない。動く鎧だから呼吸しない。
呼吸音が聞こえたら、中に人間がいるとばれてしまう。
激しい困惑を抑えて、呼吸を落ち着けてボンドーは言葉を紡ぐ。

「……デスキング殿も、未だに壮健なようで何よりです」

「退役後の生活はどうだ?
……いや、こんな事を言うのも失礼でしたな。
競馬の経営で大成功したと聞いてますぞ」

デスキングが、ボンドーの隣の席へと座った。
タバコを店主に注文し、即座に出てきた麻薬成分たっぷりのタバコをパカスカ吸いまくっている。
白色の毒煙が、ボンドーのガスマスクを突破しそうだ。
早めに情報収集を終わらせないと健康に悪すぎる。

「デ、デスキング殿……じ、実はその競馬場なのですが……最近はパチンコにお客を取られて、売上が減りまして……」

「なんと贅沢な悩みだ」

「しかも部下達が、未だに平和な生活に慣れなくて……不審物を見つけたら爆破したり、不審な人間がいたら縄を首に引っ掛けて引きずり回しの刑をやってしまうのです。
莫大な売上が、賠償金で消えてしまって困りました」

「確か……お主の部下は生前……」

「そうです、あいつらの生前は――遊牧民族です。
しかも、略奪やりまくりの全盛期のまま、デュラハンになったから、生前の感覚がどうにも抜けないようでして……」

ボンドーは言いながら、何時になったら生前の感覚抜けるんだよと、内心でツッコミを入れた。
デュラハンの情報を集めて気づいたが、彼らが金属の身体を手に入れて、もう100年ほど経過しているはずだ。
更生の余地がないなら、さっさと処刑した方が良いに決まっている。
街中を戦場だと勘違いしながら、日常生活を謳歌するようなものだ。

「遊牧民族ボケか……?
退役する前より酷い事になってそうですな……。
タバコなら奢りますが?」

そう言ってデスキングが、タバコの煙で輪っかを作った。
恐らく、ボンドーがタバコを全く吸わないのは『部下達がやった不祥事による賠償金』のせいだと思い込んでくれているようだ。
ボンドーは重すぎる兜を苦労して動かして、首を二回横に振って――

「それよりも……最近の陛下の様子はどうでしょうか?」

「陛下か……どうやら人類最強の男に、命を狙われているらしいですが……特に問題はないですな」

「そうですか……」

ワルキュラから敵として見られていない。ボンドーはそう受け取った。
とっても好都合だ。油断している敵が相手なら、殺すのは容易い。
時間停止能力を知っている奴は、共産国の上層部と自分以外には居ないはずだ。

「しかし、人類最強は時間停止能力の持ち主のようでしてな。
どう警備すれば良いのか分からないと、親衛隊が愚痴を漏らしておりました」

「デ、デスキング殿!?それは問題だらけなのでは!?」

ありえない。ボンドーの能力がばれている。
まさか、共産国の上層部が裏切って情報を流したのではないかと?ボンドーは自国を疑った。
この暗殺任務は、ボンドーの処分を兼ねている厄介な案件なのかもしれない。
しかも、時間停止が出来る事がばれているのに、ワルキュラはボンドーを強敵と認識してないらしい。
こうなったら、詳しい情報を知っているであろうデスキングから、たっぷり情報を聞き出しておく必要がある。

「そもそも、陛下は転移魔法で頻繁に移動しておられるから、護衛部隊を随伴できない訳でして……デュー殿」  最後のデューという三つの言葉を紡いだデスキングから、少し殺気を感じた。

「い、一緒に転移すれば良いのでは?」

「実験したら、転移魔法に巻き込まれたスケルトンが、原子レベルに分解されて目的地に移動しましてな。
アトリ殿が言うには、『ワープで一番必要なのは、全ての干渉を打ち切る防御フィールド』という事らしいですな。
私はどうやって陛下に追いつけばいいのか、さっぱり分からんのです、デュー殿」 

「なんて、壮絶すぎるお方だ……!」

配下のアンデットすら実験で殺す悪の帝王。
共産国の紅い大魔王並に酷い。
きっと、スター主席みたいに高層ビルからの飛び降り自殺を命じたりする感じに、噂通りの骸骨なのだろう。

「それに、私はどれが本物の陛下なのか分からないのです」  

「え?」  ボンドーは聞き返す。

「我が帝国内に、首都が合計11個あるのは知っておられるな?」

「え、ええ、広すぎる国土を統治するために、首都を増やして相互に監視していると聞きましたが……?」

帝国は50億人を超える前代未聞の巨大組織だ。
首都一つだけだと、政治が回らないから、副首都が別に10都市ほど置かれている。
どの都市が消滅しても、他の都市が機能を果たす――民主主義、いや、軍事用インターネットのような厄介さを帝国は持っている。
普通なら、船頭を多くして山に登るような無謀極まりない国家形態。
味方同士で内ゲバして機能しないはずの架空システムで、帝国は経営されているのだ。
その帝国最大の謎が、デスキングの口から――あっさり漏れた。

「この星で、有力な敵が存在しなくなった以上、一番の驚異は内部の腐敗そのもの。
それぞれの首都に、陛下の分身がおり、どれが本物なのか誰にも分からないようになっている」

「な、なんですとっ……!」

「首相が言うには、『どれも本体と意識が繋がっている以上、全部本物だ』そうだ。
私には訳が分からない説明だったが、役人達が怠けたり不正できないように、陛下は分身して帝国を統治しておられるようだ。
君主とは忙しすぎて、まともに仕事をすれば家庭を営む事すらできないのですが、陛下の場合はこのおかげで複数の嫁を満足させて、家庭を築けているようでして。
真に偉大すぎる男と言わざる負えませんな」

各首都ごとに、ワルキュラがいる。
なるほど、確かにそれなら、軍事用インターネットみたいな国家形態が成立する。
指導者のコピーが大量に存在するのだから。
本物を倒せば、分身が消滅するという保証もない。
正直、ボンドーの時間停止能力でも、対処が困難な強敵のようだ。
都市ごと消滅させる攻撃を使われたら、ボンドーといえども、確実に死ぬだろう。
ワルキュラが、ボンドーを強敵だと思わないのは当たり前だ。
分身が一つでも殺害された瞬間、都市ごと吹き飛ばせば、ボンドーを始末できるのだから。 

「ところで、デュー殿」 無感情なデスキングの言葉が響いた。

「どうしました?」

「最近、戦争が無くて暇が増えました」

「陸軍は、防御向きの軍隊ですから、それは仕方ないでしょう。
敵国は海の先にある訳ですし」

「外征軍の旧式兵器ばっかり降ろされて、なにかこう……不満な心がたぎってきました。
先日の人間王国への侵攻でも、陸軍だけ仲間外れにされて、部下たちが辛い思いをしている訳で……」

「そんなことを言ったら――」

ボンドーはひと呼吸置いて、暗記した内容を思い出しながら言葉を続けた。

「私のデュラハン機動軍は、車の発明で、存在そのものが意味がなくなって解体されましたが何か?」

「……済まなかった、デュー殿。
会話が上手ですな、感心しました」   

「いえ、良いんです、デスキング殿。
それよりも――暗殺者が陛下の命を奪おうとするなら、どのような方法を使うと思いますか?」

その言葉をボンドーが言った途端、デスキングの全身から、猛烈な殺気が一瞬だが……吹き荒れた。




中編に続く




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4 件のコメント :

  1. ワルキュラ様がチートすぎてきもちいー

    なんだろうこの快感

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    1. (´・ω・`)ゆっくり修正完了


      ワルキュラ(´・ω・`)本当の敵は、惑星上にいるんじゃない!
      内部と、宇宙にいるんだ!

      共産国(´・ω・`)敵として見られてない!?

      削除
  2. 嫁複数いるのかw
    意識だけ操れるのなら骸骨で無くクローンで遊べば
    ホントにハーレムできそうだな
    ただ精神的過労がマッハになるけどw

    返信削除
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    1. ワルキュラ(´・ω・`)夢世界にいる奴以外、皆、骸骨ボディ。
      変身魔法使えばワンチャンス。



 


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