真っ暗な空、漂う小さな雲達。
ワルキュラは、それらを見上げながら――俗世間から離れ、自然の雄大さに浸っていた。
(空は広いな……大きいな……。
俺の心を癒してくれる……黒と白の縞々な光景が美しい……)
今日は公務がない特別な日。
愛するルビーと一緒に、水着を着て、プライベートビーチの浜辺で余暇を楽しんでいる。
小さな身体を包む、黒と白の縞々模様のセパレートな水着が、とっても美しかった。
時間を無駄に浪費する感覚がたまらない。
人間王国を併合して忙しい時期だが、ルビーと一緒に、夜の時間を遊びに消費するのは最高だった。
「ワルキュラ様〜、砂の城って作るの大変ですね」
そんな安らかな一時を――文明の利器が邪魔をした。
異次元(ドリームワールド)に格納した衛星携帯電話が甲高く鳴り響いている。
携帯のせいで、何処からでも仕事の連絡が入ってくるのがデメリットだ。
(き、緊急の仕事かっ……!?
何か大問題が発生したのだろうか……!?)
嫌な気持ちになりながら、ワルキュラは携帯電話を取り出して、応答する。
電話番号は首相官邸だ。つまり、ホネポ首相からのお知らせ。
緊急の案件だから、きっと碌でもない内容なのだろう。
しかし、耳を塞いでも居られない。ワルキュラは大帝国の立憲君主なのだ。
首相にほとんどの仕事を放り投げているとはいえ、やるべき事はまだまだ多い。
通信のボタンをポチッと押し、頭蓋骨に携帯を当てる。
「……俺だ。どうしたホネポ?」
「ワルキュラ様、ご報告があります」 感情を感じさせない声だった。
「きっと、とんでもない、内容なのだろうな……?」
「やはり……お分かりでしたか。
ニンゲン地方で行ったサムレイによる死傷者数が判明したのであります。
死者200万人、負傷者500万人だそうです」
「ふむ……え?サムレイに巻き込まれて200万人が死んだ?
事前に避難勧告したのに?」
「はい、真に残念な結果になりました」
全く残念そうではないホネポの声を聞き、なぜ、200万人もの人間が死んだのか、ワルキュラは考えた。
避難勧告をしても、大勢の人が死に、そして負傷した現実。
答えは簡単だ。旧人間王国の腐敗が、人間に絶望の感情を植えてしまったに違いない。
あの国の平民は、収入の9割が、税金と必要経費で綺麗さっぱり消えて、土地持ち農家でも食べていくので精一杯だと聞く。
その状態で飢饉が発生して、将来が超不安になってしまったから、生き続けるのを諦めてしまったのだろう。
これは明らかにワルキュラの過失ではなく、王国の指導者達が悪い。
(ふぅ……やはり人間王国は滅んで当然の国だったのか……)
しかし、どうやって、実際に自殺した自殺志願者200万人を更生させよう。
地下都市にいるカウンセラーの数は足りるのだろうか?
なんで、俺は、そんな腐った王国の尻拭いをやらないといけないのだろうか?
宗主国としての義務か?)
そういえば、社会問題といえば、テレビゲーム中毒になっている子供達の話をよく聞く。
ゲーム産業は、将来的に発展しそうだが、アンデットと違って人間の脳みそは、一度中毒になってゲームをやりすぎたら、機能がぶっ壊れて低性能になる仕様だ。
車の運転中も、ゲーム画面が目の前に表示されて、運転に集中できずに事故って大変らしい。
そんなテレビゲームの規制もどうしよう。
一日一時間しかプレーできないような仕様のゲーム機を作るべきだろうか?
(いや、複数のゲーム機を使えば、一日に4時間も8時間も、ゲームに没頭できるから意味がなさそうだな……)
ゲーム業界的には、ゲーム中毒者が増える事は喜ばしい事だろうから、ワルキュラの規制案に大反対するはず。
長い時間をかけて、民意を盾に規制を進めないと駄目だ。
(問題が山積みだな……。
もう、いっその事、生きた人間を全員エルフ転生鍋に放り込んだり、アンデットにした方が統治が楽かもしれない……)
物騒な事を考えたワルキュラは、その思考を中断し、ホネポ首相との会話を終わらせて通信を切った。
今はプライベート中だ。仕事の事は後で考えた方が良い。
折角、ルビーと一緒に外出して、夜の静かな島でイチャイチャして黒と白の縞々模様の布を見ながら、砂の城を作っているのだ。
そんな無駄で有意義な時間を楽しまないと駄目だ。
「ワルキュラ様?仕事忙しいですか?」
寂しそうな顔で、小さなルビーが話しかけてきた。
未だに二人の間に子供が出来ていないから、ちょっと不安になっているのだろう。
「う、む。大丈夫だ。
俺はルビーのためならば、幾らでも頑張れるぞ?
だが、仕事と嫁の二つを満足させる事は容易いのだ。
太陽が訪れるまで、たくさん遊ぼう」
「さ、さすがはワルキュラ様です!
仕事と家庭の二つを両立させるなんて凄いです!
僕、尊敬します!」
「うむ、俺は凄いのだ……」
本当のワルキュラを理解されていない。
そんな寂しい気分になるが、ルビーが大切な娘である事には変わりがない。
味覚も痛覚も、一時的に魔法で共有しているから、生きていた頃の感覚を彼女は思い出させてくれる。
そんな彼女のためならば、何でもでき――再び携帯電話が鳴ってしまった。
電話番号を見ると、どうやら商国との緊急ホットラインのようだ。
(ルビーとイチャイチャしたいのに間が悪いな……)
暖かい一時を邪魔され、イラッとしたワルキュラだったが、平静さを維持しながら携帯を頭蓋骨に当てて、遥か遠くに居る猫人に語りかける。
「俺だ」
『ワルキュラ様〜、毎度、どうもありがとうございますにゃー。
ニャンコ商国のニキータ大統領ですにゃー』
この声で、商国の肥満デブをワルキュラは思い出した。
商国は開発独裁制の国であり、経済の発展のためならば、人民の弾圧すら厭わない商人の国だ。
少しでも、ニキータ家のやり方を批判されると、凄まじい民事訴訟を起こして、莫大な賠償金を課して大儲けする事で有名である。
つまり、民衆の弾圧ですら、利益が出る産業にしてしまう金の亡者だ。
(緊急ホットラインを使うという事は……大きな商売なのだろうか……?)
ワルキュラは、経済を中途半端にしか理解していない素人である。
出来れば、商談の類は商社や、経済を担当する役人を通してほしかった。
歴戦練磨の大商人と商談やって勝てる自信がない。
「お、お……ニキータ殿か。
何かの、商談なのだろうか……?」
「良い情報がありますにゃー」
(休暇を邪魔されて、俺は少し不快なのだが……いや、俺は君主なのだ。一応。
民主主義国家の立憲君主として仕事をやらねばな……うむ。
一応、話を聞くだけなら問題ないだろう)
「共産国が、ワルキュラ様を暗殺しようと企んでいますにゃー」
ワルキュラ、携帯電話を空に放り投げた。海にポチャンッと沈没し、二度と浮かび上がってくる事はなかった。
幸い、ルビーは、合流してきたエルフ嫁のアトリと一緒に、砂の城を作っているから、気付いていない。
(覚悟はしていたがっ……!
水路建設で、俺の世間のイメージが悪化したのだろうかっ……!?)
フリーザ共産国といえば、紅い大魔王と呼ばれる銀髪ロリ雪女がいる大国である。
民衆虐殺しまくり、強制労働させまくり、人工大飢饉すら引き起こした悪魔だ。
そんな国が送ってくる暗殺者だから、きっと化け物に違いない。
何せ、この世界にワルキュラが来た時、スタート地点の地下に、ラスボスがズラリッと揃っていて、何度も死にかけたのだから。
決して油断できなかった。
(夢の世界で再会したスー殿は、今頃どうしているだろうか?
きっと開拓地で、仲の良い部下に囲まれて頑張っているのだろうなぁ。
俺も、そんな平凡な人生を歩みたい。
のどかな辺境で、第四の人生を送りたい……。
俺の人生、どうしてこうなった……)
人間王国編 おしまい
没ネタ
「ワルキュラ様!城できました!」「観光客向けの城なのです〜」
砂で、西洋風の城、縦に糞長い城を作ったルビーとアトリが居た。
(うわ合法ロリと師匠しゅごい)
【小説家になろう】
現実でショボイ俺が、異世界に行ったら凄かった」テンプレ
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【内政チート】アメリカ「見よ!これが本当のチート生産力だ!」第二次世界大戦
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