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井戸用手押しポンプ2万円
(カンボジアの田舎みたいになってしまったのです……)
エルフ娘のエルフィンは、井戸から水を汲む重労働を放棄して、村の外を見ていた。
水堀の周りに、鉄条網という鋭いトゲが付いた糸を縦横無尽に張り巡らし、更にその外側には、膨大な数の跳躍地雷が埋まっている。
村の入口以外、全てが罠だらけという異常な場所になってしまった。
(……せ、生活が不便になったような気がするような………?
迂闊に、外部に畑を拡張できなくなったのです……!)
そんな風に、のんびりゆっくり過ごしていると、村の外に、豚人間が10匹ほどやってきた。
豚どもの視線は、金髪巨乳エルフ娘――ではなく、地雷原のど真ん中に設置された看板に、注がれている。
看板には、地球の金髪巨乳美女アイドルが印刷されており、豚人間は、その絵の巧妙さに好奇心が抑えられない。
「ブヒィー!あんなところに素晴らしい絵があるブヒィー!」
「お嫁さんにしたいブヒィー!」
「きっと、絵の世界から美女が出てくるに違いないブヒィー!」
すぐに、看板を略奪しようと走る。地雷原の真上を駆け抜けた。
1匹が敷設された跳躍地雷を踏んでしまう。
すぐに空き缶サイズの地雷が、真上へとジャンプして、空中で大爆発。無数の鉄球を周辺にばら撒き、豚人間達をズタズタのボロ雑巾さんにしてしまった。
「ブ、ブヒィ……?」
「な、なにが起きたブヒィ……」
「もっと……お尻を……揉みたかった……ブヒィ……」
(お、恐ろしい地雷なのですっ……!
周りを効率よく巻き込むために、ジャンプさせてから爆発させるなんて鬼畜すぎるのですよっ……!)
恐怖するエルフィン。そんな彼女の後ろに――地雷を仕掛けた張本人が、音もなく、空を飛んでやってきて、挨拶した。
「おはよう、エルフィン」
「……お、おはようなのです、シルバー様」慌てて後ろを振り向くエルフィン。
「水汲みの仕事、大変そうだな?」
『エルフ娘が仕事をサボっているのを見たのにwww気を遣う妖精さん優しいwww』
『妖精さんは、巨乳好き。はっきり分かんだよ』
『そりゃ陵辱レイプされた美少女だからな。優しく接して、後で美味しく食べるんだろう?』
「た、確かに大変なのです。でも、ここではこれが当たり前なのですよ」
エルフィンは嘘をついた。水汲みが重労働だから、仕事をサボった事を誤魔化した。
現代の地球とは違い、この未来世界では、掃除機を含む、世界史を変えた省力家電の類は存在しない。
家事だけで貴重な一日が終わってしまう。そんな大昔に戻ってしまったのだ。
『妖精さん、十万円あげるから、ポンプ付き井戸を作って、エルフィンちゃんに楽をさせてあげてほしいお!』
『この村に足りないものっ!それは衛生的な深い井戸だ!
浅い井戸は、バイキンだらけでバッチィぞ!
食中毒で亜人娘達が苦しむ様は見たくない!』
(や、やっぱり、不思議な雑音が聞こえるのです……。
きっと、嘘とか全部ばれているに違いないのですよっ……!)
叱られると思ったエルフィンは、エルフ耳が下に垂れた。
だが、彼女の反応を余所に、目の前の小さな妖精は、エルフィンの事を思いやって――
「なぁ……エルフィン。
井戸の水を汚いと思ったことはないか?」
「た、確かにバッチィような……?
でも、熱で殺菌すれば大丈夫なような……?」
「よし、俺に全部任せろ!
エルフィンに清潔で、美味しい水を飲ましてやる!」
「……はぃ?」
突然の展開に、エルフィンは訳が分からなかった。
『エルフィンたん、明らかに異常だお。細菌の存在を知らないと出てこない単語があるお』
『殺菌という概念を知っている時点で、何か、凄い秘密を握っているに違いないお……』
〜〜〜〜〜〜〜〜
数日後。シルバーが暇そうにしている骸骨達を集めて深い井戸を掘った。
シルバーだって、美味しくて、清潔で、冷たい水を飲みたい。
だから、井戸はとんでもない深さになってしまった。ざっと40m。水質検査はしたが特に毒物は入ってないようだ。
『俺らの寄付を湯水のように使う妖精さん』
『らめぇー!アフリカで同じ事をしたら、盗まれて転売されちゃうよー!』
『日曜大工の仕事としては……難易度高すぎるな』
そこに、ネット通販からポンプ付き井戸の部品を購入し、ネットの皆のアドバイスを聞きながら作業をやり……なんと、村の中央にハイテクな井戸が出来上がっていた。
動力は人力しかないから、手でハンドルを押し下げて、水を汲み上げる事ができる手押しポンプだ。
シリンダー内の空気を、真空状態にする事で、低いところにある水がパイプを通り、大気圧で自動的に登ってくる仕組みである。
そんな科学的な説明を、シルバーは、エルフィン達を含めた村人達にした。
「し、真空って何だべ?」
「ま、魔法だ!魔法の井戸だぁー!」
「シルバー様の魔法だぁー!ありがたやぁー!」
『原理を説明しても、意味がない件』
『アホにも理解できるように説明しないとダメだお』
「えと、そうだな。
うん、魔法っぽい力で動く装置だと思えば良い。
単純な操作で、深いところにある水が、ここまでやってくるんだ」
シルバーは、教育って重要なんだなぁ、という顔をしている。
難しい事を簡単な内容にして説明できる会話能力が、ここでは求められていた。
(ぜ、絶対に転生者か、『夢幻』に違いないのですよっ……!
ダーク・シルバーは、物質を創造するタイプの能力だと、本に書いてあったのですっ……!
し、しかも、技術者としても優秀なのですっ……!
これが完璧超人という奴なのですかっ……!?)
エルフィンは驚きながらも、これから先、家事で楽が出来ると思い、心を安らかにする。
科学文明が完全崩壊した世界で、手押しポンプは画期的な道具だ。
農作業用の水路に、手押しポンプで水を送るもよし、水が少ない地域だったら、これで灌漑農業出来る。
(シルバー様はとんでもないお方ですけど……家事が楽になりそうなのですよ……。
美味しくて冷たい水が飲めるのですっ……!)
「これで、水汲みの仕事は楽になったな!」
シルバーが、エルフィンにほほ笑みかけてくる。
ショタ妖精の魔性イケメンっぷりに、エルフィンの心臓がドキドキした。大きな胸に両手を当てる。
(ぜ、絶対にチャームの魔法か何か使っているに違いないレベルの美少年なのですっ……!
美しすぎて、逆に不審者すぎるのですよっ……!
ぜ、絶対に惚れたら、碌な最後を迎えないに違いないのですっ……!)
しかし、ここでシルバーに返事をしないのは失礼だった。
だから、エルフィンは、お礼の言葉を言おうとして――この場にいたプラチナに、言葉を遮られる。
「さすがはシルバー様です!
家事の仕事を軽減して、もっと領民に色んな有益な仕事をやらせるんですね!経営者の鏡ですよ!
たくさんたくさん働かせて、大国を作りましょう!大国!
世界帝国でも良いですよ!」
「……あ、うん。そういう事でいいかな……?
いろんな産業あった方が、豊かになれる……?」
『自信がない指導者に、付いてくる民草は居ませんぞ!』
『ダメだ、この妖精っ……!恐怖政治やってなかったら破滅しているわっ……!』
シルバーの意味のない呟き。
領民達はそれを聞いて、残酷な未来を想像した。
支配者が、民草に楽をさせる政策を行うはずがないという先入観が働き、不安となり、彼らの心の中に染み渡る。
「お、俺達をもっと働かせるっ……?」
「やっぱり、恐ろしい大魔王だっ……!」
「オラっ!働かずに暮らしたいだっ!」
辛い農作業は嫌だっ!
「や、やめるだ!そんな発言したら、リザードマンのゴロツキみたいに処刑されて、ステーキにされて食われてしまうだ!」
『内政チートが難しいお』
『妖精さんの信用度はゼロだお』
この場で、シルバーの傷ついた心を救ってくれるのは、嫁の銀髪ロリだけだった。
プラチナは落ち込みかけているシルバーを励まそうと、両手を振り回し、民衆を扇動する。
「さぁ!皆さん!
シルバー様に拍手しましょう!
えと、手押しポンプ?
僕たちは、それのおかげで、水汲みの仕事から解放されました!さぁー!パチパチッー!」
領民達が、命の危機を感じながら拍手をした。
その光景はまさに――支配者と奴隷。数日前に繰り広げられた新領主演説の時と同じ、恐怖政治だった。
「シ、シルバー様万歳っー!」
「て、手押しポンプで、生活が楽になりますだぁー!」
「新鮮な水を飲み放題ですだぁー!」
「あっひゃー!水だぁー!綺麗な水だぁー!」
『生活が楽になったのに、なぜこうなった』
『人と人が分かり合うのは大変だお……』
『プラチナたんとの子作りはよ』
この拍手の嵐の中、エルフィンだけは自然と笑みを浮かべる事ができた。
現代人な彼女にとって、水汲みなんてクソゲーそのもの。
手押しポンプで、楽に水を汲み出す日々が到来すると思えば、少しだけ落ちついた。
(シルバー様の思惑は分かりませんが……これで私の異世界生活が楽になるのです。
目指せ現代文明生活なのですよ〜)
『このエルフ娘、妖精さんに惚れてますぞ!』
『この笑顔、間違いないお!』
〜〜〜〜
『ヤムチャしやがって……』
『手押しポンプさん、ご愁傷様です』
……手押しポンプ付き井戸(中古品)を、千人の亜人が、朝から晩まで使いまくった結果。
使い方を録に覚えていない連中のせいで、一週間でチェーンが切れ、一か月後には水を収納するタンクが壊れてしまった。
浅い井戸を利用する時代が、また戻ってきて、エルフ娘のお腹が痛くなる。
エルフィンは。壊れた手押しポンプを見て、呆然と佇む。
その彼女の後ろを、シルバーが申し訳なさそうな顔で立っていた。
「私達の希望が……砕けてしまったのです……。
辛い水汲みはもう嫌なのですよ……」
『これ見ると……発展途上国を思い出すな……支援しても支援しても、技術者がいないから、ポンプ付き井戸の大半が壊れたまま放置されると聞く……』
『でも、浅い井戸だと、ばい菌がウヨウヨいてバッチィお?』
『朝から晩まで、濁った水を飲んでいるから、自分たちがどれだけ不衛生な環境にいるか知らないんだお……。
エルフィンたん可哀想だお……』
「あ、安心してくれ、エルフィン!今すぐ修理するから!」
シルバーは、男としての意地を見せようとした。しかし、豚人間の討伐や、領主としての仕事を覚える必要がある。
だから、今度は壊れても、簡単に修理できるようにドワーフの鍛冶師に、設計図を書いて渡し、修理させた。
そのおかげで、手押しポンプは治ったが、その過程で人件費が発生し、財源にしようとするプラチナの介入で、有料となり、周りに4体の骸骨戦士が配備され、気軽に使用できない高級井戸として、村に残った。
安全な水は無料ではない。お金に出来るのだ。そんな現実にエルフィンは消沈する。
「うううっ……!
やっぱり、シルバー様は悪の帝王なのですっ……!
税金が2倍になって、安全な水の有料販売までするなんてっ……!
私の貯金が尽きてしまうのですよっ……!」
エルフィンの懐の財布が軽い。もっと給料を上げて貰わないと生活できない的な意味で。
そして、新たな事実に気がつく。
「ま、まさかっ……!」
目の前の深井戸。この清潔で安全な水を飲んだら、二度と他の水は飲めない。
特に、21世紀の日本人なら、この井戸のために、金を払い続けまくって、水を飲み続けるだろう。
「て、転生者を炙り出す装置っ……!
な、なんて卑劣な陰謀なのですかっ……!
ダーク・シルバー様はっ……!
転生者を炙り出して、一体、な、何をするつもりなのですかっ……!」
怖くなったエルフィンは、それでも清潔な水が欲しくて、深井戸を利用し続けた。
深井戸は利用者が少なくなりすぎたせいか、静かにションボリ、佇んでいる。
4体の骸骨戦士が無言で笑った。
〜〜〜〜
現実の井戸(´・ω・`)地下にある水が、毒物な事があるから、水質検査しないと、大変な事になるお。
カンボジア(´・ω・`)ボランティアに井戸を掘ってもらったら、ヒ素に汚染されている水だったお……
死人続出……
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