前にゆっくり戻るよ!  次にゆっくり進むよ! 


ゆっくり戻るよ!

第三階層の崖には、ダンジョンへと続く道を覆うようにして作られた重厚な要塞と、その周りに探索者が利用するであろう建造物が見える。
マッハが20人の嫁にボロボロにされて、地面に引きずられながら四階層へと行こうとする姿が見えたりしているが、特に問題はない。
あの姿を見て、ハーレムは難しいと俺は学んだだけだ。
ムラサメちゃんなんか、マッハの事を鼻で笑いながら

「多数の婦女子に手を出すような駄目男にはお似合いの末路です。
きっと、主殿みたいに無理やりやって、女性達を虜にしたに間違いがありません。
当然の結末という奴です。」

初体験がレイプだった事実を根に持っている事がわかって、俺の心が少し痛かった。
マッハはどうやって、あれだけの女性を口説いたんだろうな。俺みたいな脳味噌筋肉だって事を考えると、夜這いとか、そういうやり方しか思いつかん。おっぱい。
兎にも角にも、俺とムラサメちゃんは第三階層にやってきた。
これからの探索は、命を賭けた難しいものになるだろうと覚悟を決め、俺達は要塞の方へと向かって歩いた。
マッハの悲鳴がBGM代わりになっていて、気分はシリアスである。

「俺様が悪かったぁっー!だから、許してくれぇっー!
公衆の面前でのセクハラは二度としないっー!
・・・ぎゃあああああああああああああああああああっ!!!!」

ハーレムは難しい。
好きな女の子にイタズラしないのは無理ゲーだと俺は思う。









4話     戦える豚は戦士だ。戦えない豚は家畜だ。








第三階層の中は、第一階層と同じく労働の神様のおかげで明るい。
通路も4mのハルバードを振り回せるだけの巨大さがあって素敵だ。
時折、巡回している軍隊に遭遇したりするが、俺に醜い嫉妬心を見せつけてくれるだけなので安心である。

「モテモテ男めっ!」
「ポニーテールのサムライ美少女だとっ・・・!」
「無職だと?就職しろっ!」
「就職しろっ!死にたいのかっ!」
「就職しろっ!」

俺は余裕な心を持って、兵士達に同情した。
きっと、こんなところまで来てくれる女の子がいなくて、遠距離恋愛とかで悲惨なのだろう。
・・・と思ったが、軍隊の半分ぐらいが女兵士だった事を思い出し、身近に女の子がいても恋人すらいない悲惨な状況だと理解して悲しくなった。おっぱい。



軍隊が巡回している場所には、オークがあんまりいないせいか、歩いて六時間くらい経過しても敵と遭遇しない。
帰りの道は、天井に矢印が刻みこまれているので、これに頼って道を辿れば帰れるので安心だ。
横の壁にも矢印が刻み込まれていたりするが、破壊されていたり、正反対の方向に書かれていたりといい加減である。
俺とムラサメちゃんは、時折、天井を見て、道を確認しながら第三階層を探索し続ける。

・・・・・・前方に何かがいる。
肥え太ったような身体を持ち、それでいて強そうで凶暴な印象を受けるモンスターだ。
地上で安く販売されている豚とそっくりの顔を持っている所から考えて、オークという名前の豚顔の人型モンスターだと俺は判断した。
そいつは手に持った石の槍を構えて、こちらへと突撃してくるっ!

「ブヒイイイイイイっ!!!!美味しそうブヒイイイイイイイっ!!!!!」

幸い、こちらのハルバードの方がリーチが長い。
力を籠めて、ハルバードの先端でオークを突く。
オークの腹をぶち破り、内臓を周りにまき散らしながら、致命傷を負ったオークは神々の食材へと交換された。
残されたのは透明な袋に梱包された美味しそう豚肉100gである。
焼き肉とスキヤキにぴったりな食材だ。
食材の名前は、食の神様に預かってもらおうとした時に【ジューシーポークを預かった】という神様の声が聞こえたから、ジューシーポークという名前だとわかった。
だが、食べられるのは俺達が第三階層の要塞に戻ってからなので、それまで味を楽しみにしながら探索できそうで俺はワクワクする。




この時、オークがコボルトリーダーよりも小さくて弱かったから、第三階層を舐めてしまった俺達はすぐに後悔する事になる。
戦闘音を聞きつけたのか、数十匹のオーク達が石の槍を構えてこちらへとやってきているのだ。

「「「「美味しそうな人肉ブヒイイイイイイイイイイイっ!!!!!」」」」
「「「「人間の女の子は美味しそうで可愛いブヒイイイっ!!!!拷問してから食べてあげるブヒイイイイっ!!!!」」」」」
「「「「「巨大な人肉がいるブヒイイイイイイイイイっ!!!!!」」」」」」

明らかにこのオーク達は集団戦に手慣れている。
一階層のコボルト達もそれなりに強かったが、オークの場合は、豚顔が威嚇しながら突撃してくる姿が暑苦しくてうざいのだっ!
俺は敵の先頭集団を斬るためにハルバートを思いっきり横薙ぎに振る。
数匹のオークが身体をバラバラにして分解して飛び散り、血の煙幕が一瞬出来あがるが、オークの突撃は緩まない。
そのまま石の槍で俺の筋肉を刺してきた。

「くっ!」

石の槍が身体の各所に浅く刺さる。鈍器に近い代物なので殴られたような痛みを感じる。
身体が刺されすぎて行動し辛いが、近くにあるオークの頭をハルバードの柄で殴った。

「ぶひひひふっ!美味しそうな肉ブベッ!」

超近接戦闘に邪魔なハルバートは捨てて、俺に近付きすぎたオーク達の頭を手で掴み、そのまま頭をねじる。
俺に石の槍が刺さっているせいで油断したオーク達の頭を殴る、蹴る、首を絞めて絞殺する。
普通の成人男性程度の身長しかないオークなぞ、身長2mの俺の怪力で殺すのは容易い。
受けたダメージは、飴玉をポケットから出して舐めて、近接戦闘しながら回復すれば大丈夫だ。

ムラサメちゃんの方を心配してチラリと見ると、オーク達の手や首を浅く斬って、そのまま出血多量で死なせる闘い方をしていた。
オークの大部分を俺が引き寄せているせいか、楽そうである。
俺はもっと楽にしてやるために、オークの身体そのものを盾にしながら、近接戦闘を繰り返した。
両手が使えないなら首筋を噛んで、出血多量で死なせればいい。
目に指を突っ込んで、脳まで破壊してやれば簡単だ。
俺の筋肉は、石の槍では浅くしか刺さらない筋肉の鎧なのだ。
もう、無職王になってから、ますます筋肉がマッスル状態っ!


超近接戦闘を5分ほど繰り返していたら、オーク達はジューシーポークの美味しそうな姿で全員転がっていた。
ハルバートは乱戦になると扱いが面倒で4匹ぐらいしか、殺害するのに使っていない。
試しにジューシーポークを、生でも食べられるか、挑戦してみたら

「うめええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!
生でも美味しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!」

口の中に生肉とは思えない濃厚で甘い味が広がったのだ。
肉の刺身ってのが世界にあるらしいが、刺身にむいてなさそうな肉でこんなに美味しいのである。神々の食材はとても素敵だ。
焼いたら、どれだけ美味しくなるのか想像もつかない。
身体のダメージまで消え去っていく爽快感もあって、最高の食べ心地である。

全身血で染めたムラサメちゃんもジューシーポークをパクパクと少しづつ食べて嬉しそうにしているところが可愛らしい。
ずっと見ていたいところだが、またオーク達が遠くからやってきているせいで、見惚れる時間があんまりないのが残念だ。
俺は、ジューシーポークを可能な限り食べ、残りを食の神様に預かって貰い、次の戦いに備える。
回収するのに必死だったせいで、ハルバードは地面だ。

「「「「「「「「「「「美味しそうな巨大な人肉ブヒイイイイイイイイイっ!!!!」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「柔らかくて美味しそうな女の子ブヒイイイイイっ!!!!とても美味しそうブヒイイイイイイっ!!!!」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「ブヒイイイイイイイイイイっ!!!!ブヒイイイイイイイイイイっ!!!!!」」」」」」」」」」」

次に来たのは100匹はいるであろう大集団だ。
石の槍や、石の斧で武装している。
俺は少しでも多くの敵を引きつけて、ムラサメちゃんに楽をさせてやろうと駆けだした。

「「「「「「「「「「ブヒイイイイイイイイっ!!!!人肉がきたブヒイイイイイイイイっ!!!」」」」」」」」」」

オーク達が石の槍で壁を作りながら前進してきた。
俺はポケットから飴玉を取り出して口に入れ、攻撃を受ける事を覚悟でオーク達の前で高く飛び上がる。
石の槍の壁のせいでグサグサ浅く刺さるが、密集している敵のど真ん中に移動し、そのまま超近接戦闘に持ち込んだ。
1匹の頭に着地して、他のオークへと飛びついて頭を殴る。
オーク達は、石の槍が2mくらいの長さがあるせいで、うっかり味方に攻撃が当たって大混乱だ。
次々とオークの顔を殴り、あるいは指で目に突き刺して、戦闘不能にする。
目は、とても柔らかくて破壊しやすいが、オーク達が守りに入ると狙えないので、防御ごと殴った方が楽だ。
攻撃をしている間にも、オーク達の攻撃が次々とグサグサ刺さるが、浅くしか刺さらないので問題はない。

「「「「「「「「ブヒイイイイイイイイイっ!!!!なにをやっているブヒイイイイイイイイっ!!!」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「早く殺すブヒイイイイイイイイイイイっ!!!!」」」」」」」」」」」

「はっはははははっ!俺は負けねぇっ!
イブキをお嫁さんにして、エッチな事を毎日するまで生きるんだぁっー!」

正直言うと、攻撃が刺さりすぎて痛い。
筋肉のおかげで軽傷でも、痛いものは痛い。
でも、可愛い幼馴染が他人に奪われる心の痛みに比べれば楽勝だ。
オークを殴り、蹴り、間合いを離されないように集中して行動し、超近接戦闘へと持ち込む。
ハルバートよりも遥かに扱いなれた自分の身体こそが、最強の武器だと確信し、ハルバートなんていらないと思った。

「武器の扱いに対する恩恵がないから、信用できるのは俺の身体だけだぁっー!しねぇっー!」

ムラサメちゃんの方をちらりと見ると、オーク達の攻撃を回避しながら、刀でスパスパと動脈を切っている。
俺よりも効率よく殺し、刀の腕が達人クラスになっていた。
侍の職業の恩恵で刀の扱いが上達しやすくなっているのが羨ましい。
無職の俺が頼れる武器は、24時間扱いに慣れている俺の身体しかない。
ムラサメちゃんの負担を軽くするために、少しでもオークを殺そうと、殴る殴る殴る殴る。
オークの胴体を蹴って、そのまま骨をベキバキ折って重傷状態にする。
素手の攻撃は殺傷力はあんまりないが、圧倒的なエネルギーで戦闘不能にするのは容易い。
武器を使うより素手の方が速く殺せる。

「「「「「「「「「「「「「「「美味しい豚肉ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイっ!!!!!とても美味しいブヒイイイイイイイイっ!!!」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「極上の味ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイっ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「し、しあわせブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイっ!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

気づいたら、新しくやってきた百匹くらいのオーク達が、地面に転がったジューシーポークを食べていた。
目の前でどんどんレベルアップして、強化されている。
豚が豚肉を食べる共食い状態は非常に見苦しい。

俺達がオークを殺す→ジューシーポークが出現するので食べる→俺たちがオークを殺すの繰り返しをしている内に、新しいオーク達が次々とやってきて戦闘に参加するので、状況がどんどん不味い状況になっていくのがわかった。
俺よりも体格がいいオークまですでに出現している。
名前はよく分からないから、巨大オークと呼んでおこう。
巨大オーク達は、俺のところよりもムラサメちゃんの方へと集中して攻撃している。
自由自在に石の槍を振り回すせいで、ムラサメちゃんは回避するのも大変そうだ。

「ブヒイイイイイイイイイイイっ!!!!可愛い女の子は嬲り殺しにして、美味しく食べてあげるブヒイイイイイイっ!!!!!!」

巨大オークの振り上げた石の槍を回避するのに失敗したムラサメちゃんが、吹き飛ばされて地面へと転がった。
刀を手放して気絶している。
このままでは、俺のお嫁さんが豚どもの食卓に並んでしまうっ!
だが、次々と増援としてやってくるオークと、神々の食材を食べて強くなったオーク達が大量にいすぎて向こうへといけない。
人生最大のピンチだった。

「「「「「「「「「「「「「「とても可愛らしい女の子ブヒイイイイイイイイイっ!!!!食べながら愛してあげるブヒイイイイイイイイイっ!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「色んな方法で料理してあげたいブヒイイイイイイイっ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「塩焼きが最高ブヒいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「頭はから揚げにして食べると最高ブヒイいいいいいいいいいいいいいっ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「太股が最高ブヒイイイイイイイイイイイイっ!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

食欲的な意味でムラサメちゃんが危ないっ!
食べたくなるほど愛してるという愛が向けられているっ!

「ムラサメちゃんっ!起きろおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!」

俺に出来るのは叫ぶ事と、眼の前にいるオーク達を殴り殺すだけだった。
俺の周りには、更に増援としてやってきたオーク500匹がいて、向こうにいけない。
イブキよりも大事かもしれない可愛い女の子の命が散ろうとしている。
だが、俺には救出するための手段がなかった。




あとがき


(´・ω・`)食欲的な意味でピンチなのが残念だと思った。

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