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3話 豚の国B 「もう一度チャンスをくれてやろう。 今すぐ国ごと滅ぶか、話し合いをするか。 好きな方を選びたまえ」 |
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白真珠が第二王妃になってから、一週間の時が過ぎた。
ブータ帝国と名乗る豚達は、10万発の核ミサイルが全て迎撃された事に恐れおののき、各植民地に駐留している空中艦隊を集めて、一大決戦をやらかそうとしている。
問題は……植民地と本国との間にある物理的な距離。
植民地軍100万隻の艦隊が集結するには、半年の時間が必要だった。
それまでの間に、ナポ達に侵略された終了。信頼できる同盟国は存在しない。
支援を要請したら、色んな利権を根こそぎ持っていくハイエナみたいな連中ばっかりだから頼めない。
――そういう絶体絶命のピンチに立たされている。
手持ちの戦力は空中艦隊10万隻。予備役を根こそぎ動員した陸軍2億匹。
ボンレスハムのように太ったオロ皇帝は、広大な宮殿で決戦の日を待つ。
(来るが良い。謎の大艦隊よ。
この地には、無数の基地がある。
貴様らの補給線が伸びきった所を……我が軍が突く。
技術力に差はあれど、補給力の差で覆せるはずだ。
無数の国々を敗北させた『距離の暴虐』というものを教えてやろう)
そして、決戦の時は訪れた。
帝国の空が歪む。軋む。別の空間と繋がる。
1kmサイズの紅い巨大戦艦ツァーリが転移してくる。
――豚達は完全に意表を突かれた。
呆けた顔で空を見上げている。
一瞬で遠い場所に移動するワープ。
そんなSF超技術、オロ皇帝は見たことがない。
距離という概念を無くしてしまう悪魔の発明だ。
(な、なんだ!?
あの巨大な戦艦は!?
どうやって浮いていると言うのだ!)
更に可笑しい事に気がついた。
巨大戦艦ツァーリは金属の塊。
この世界の飛行船を中心に発展した兵器体系基準で考えるとありえない艦艇だ。
主に、1Kmサイズの金属の塊を、飛行船の浮力で浮かす事そのものが無駄だからだ。
的が大きくなれば、攻撃が当たりやすくなる。動きも鈍い、燃費も悪くなる。
つまり、一般常識的に考えれば――この巨大戦艦は役立たずのはず。
しかし、帝国の中枢へ乗り込んできた以上、巨大戦艦は恐ろしい火力を持っているはずだ。
(俺は一体、何と戦っているんだ?)
オロ皇帝の動揺とは関係なく状況は進む。
富士山の10倍は大きい立体映像が空中に投影された。
映像の主は――紅いスーツを着て、銀仮面を被った男ナポ。
片手に1000人の獣人がビッシリと描かれた『国旗』を持っている。
現代日本人が見たら、『痛国旗だ!』という感想が来る事間違いなしの代物だ。
『先日、核兵器で失礼な挨拶をしてきた諸君。
私はモッフフー王国のナポ王である。
今日は重要な話をするために……ここにやってきた』
大音量でゆっくりと、ナポは帝国中に話を続けた。
『この国の代表者を出したまえ。
我が国は、謝罪と賠償を要求する。
そうすれば全て許してやろう。核兵器で攻撃してきた事や、獣人達を苦しめた過去を綺麗さっぱり水に流してな。
共に手を取り合い、新しい道を進もうではないか。
……憎しみは悲しみしか生み出さない』
そう言ってナポは後ろを振り返る。
『ミーニャン。
音楽を流し忘れているぞ』
立体映像にはナポ本人しか映ってないから、後ろにいる巫女服着たミーニャンの姿はオーク達には見えない。
『忘れていたのです、モッフフー。
スイッチをポチッとな』
荘厳な音楽が流れた。
ワーグナーのワルキューレ騎行だ。
戦場にぴったりの名曲だ。
『うむ、スタイリッシュで良い曲だ。ヘリ部隊が欲しい所だな』
だが、今のやり取りのせいで、音楽そのものに迫力があっても間抜けな展開になっている。
これらの光景を見て、オロ皇帝が下した決断は――
「各将軍に伝えよ。
神聖なる帝国の領土を侵犯してきた馬鹿を殺せとな。
持ちうる全火力を持って叩け」
「了解しました、陛下」
側近があちらこちらに通信する。
すぐに首都近辺にある数百の基地から、対空射撃が開始された。
膨大な鉄の雨。地上の帝都ブタマルカの事を何ら考慮しない圧倒的な対空放火。
だが、高速で飛ぶ弾丸は、巨大戦艦ツァーリの周りに展開されたバリアーを突破できない。
バリアーに触れた途端、弾丸は溶けて蒸発して消える。
対空ミサイルも湯水のように消費され、次々と空を飛ぶが、飛行船を撃沈するのには十分でも、バリアー相手だと爆発する前に溶かされて意味がない。
立体映像のナポは、いきなり攻撃された事に何ら戸惑いを見せず、後の交渉材料にしてやろうと笑みを浮かべている。
『諸君。外交使節に対して……とても失礼な対応とは思わないのかね?
貴様らの砲弾もミサイルも、私が作り上げた巨大戦艦ツァーリを破壊する事は不可能だ。
諦めて交渉のテーブルに乗りたまえ。
私が要求するのはとても些細な事だ。
金属資源を10年間、私が望む分だけ無料で提供する。獣人とエルフ達に謝罪をする。
ただ、それだけなのだ。
それだけで核兵器を使った貴様らの数々の大罪は許され、私という後ろ盾を得る事ができる。
どうかね?お得だろう?
交渉次第によっては、譲歩しても良いのだぞ?』
ナポの言葉は無視された。
無数の鉄の雨が巨大戦艦『ツァーリ』に向けて降り注ぐ。
展開しているバリアーが全ての弾丸とミサイルを消滅させる。
この展開に肩を竦めたナポは
『豚にも分かりやすく……力を見せてやろう。
これがモッフフー王の力だ。
豚は豚のように屠殺されたまえ』
指をパチンッと軽やかに鳴らした。
巨大戦艦ツァーリの主砲にエネルギーが充填。
砲門から膨大なビームが迸った。
昼間なのに、オーク達の目の前に太陽が有るかのように眩しい。
超高熱のビームは空気を貫き焦がし、街を溶かし、都市を壊し、山を貫き、帝国の第二の都市ブーマを周辺都市ごと蒸発させ、ビームは更に空気を貫き進み、近くを飛んでいた日本列島サイズの浮遊大陸を消滅させた。
豚《オーク》の死者は6000万匹、火傷で苦しむ豚は5億匹。
一瞬の大惨劇だった。
これをやった犯人は、何の感慨も浮かばないという顔で、帝国全土の豚達に語りかける。
『どうだね?
交渉テーブルにつかなければ、10分ごとに1回。
軽くて儚い大切な豚の命が損なわれる事になる。
さぁ、国の代表よ、決断せよ。
国ごと滅ぶか、話し合いの道を選ぶか、好きな方を選ぶが良い』
帝国からの返答は、たまたま近くで軍事演習中だった10万隻を超す空中艦隊。
それと、地上の基地群からの核ミサイル攻撃だった。
圧倒的な弾幕が巨大戦艦『ツァーリ』を襲う。
核弾頭はバリアーに触れる前に爆発し、圧倒的な熱波は地上の都市を溶かし、民衆を数十万匹単位で犠牲にしながら攻撃が続いた。
だが、バリアーには変化がなかった。
万単位の核爆弾が次々と爆発しても揺らがない。
これは異常だ。ありえない。
でも、答えは簡単だ。
艦艇10万隻を全力稼働させても余裕すぎるナポの魔力が、巨大戦艦一つのためにほとんど使われている。
ただ、それだけ。
核爆弾の熱波を、力押しで防いでいる。
空中艦隊を指揮する大将軍ブレイマンは恐怖した。
「あ、ありえない!?
この攻撃に耐えるなんてっ!ありえないぃぃぃぃ!!!」
絶対勝てない。
この光景を見れば誰だってそう思う。
これだけ大量の核弾頭があれば、どんな核シェルターだって破壊できるはずだ。
――雨のように飛んでくる核爆弾の群れを見て、ナポが不快になった。
『まだ、私の力が分からないのかね?
交渉のテーブルにつけと、何度も言ったはずだ。
そんなに私の力を見たいのなら、見せてやろう。
豚よ、地獄で後悔するが良い』
腕を前に出す、指を華麗にパチンッと鳴らした。
空中に無数のマイクロ・ブラックホールがウジャウジャ発生した。
大将軍が指揮する空中艦隊、地上の基地群が飲み込まれる。
都市にいた豚達も吸い込まれて、空を飛び、圧縮された。
10秒も経過する頃には、10万隻の空中艦隊のほとんどが吸い込まれて圧縮され潰され、ブラックホールごと消滅。
地上にいた豚は3億匹ほど吸い込まれて死んだ。
幸運にも生き残ったオロ皇帝は、この光景を見て絶句する。
科学技術、もしくは魔法に差がありすぎると。
勝てない。どうしようもない。
なら、交渉のテーブルに付くしかない。
『もう一度チャンスをくれてやろう。
今すぐ国ごと滅ぶか、話し合いをするか。
好きな方を選びたまえ。
これは最終通告である。
拒否すれば皆殺しだ』
こうして、オロ皇帝とナポ王は交渉の席に着いた。
220億匹の豚の畜生《じんせい》が、この会談にかかっている。
Cに続く
この話のコメントまとめ + 作者感想
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