ブルー達は、行く先々で障害(デパートの商品)を乗り越え、ダンジョンの最終階層へと到達した。
そこは最後のステージに相応しく……大きな大きな扉がある。
トルは息を飲む。ここはきっと宝物庫に違いない。
ダンジョンの一番奥にあるんだ――金山財宝ザクザクに違いないと。
少女を覚悟を決めて扉を開く。するとそこには――
「な、なんじゃ!?これは!?」
扉の先には、無数の腐った元人間が居た。
ただの死体ではない。全て元気に動き回っている。
つまり世間一般でいうゾンビがウヨウヨ居た。
自動小銃を持った警官達が乱射して、ゾンビ達と戦っている。
「助けてくれぇー!残りの銃弾すくねぇよぉー!」
「軍の到着はまだかっ!?もう限界だぜ!」
「アインズさんがやられたぁー!?!」
「うわぁー!ゾンビ犬までいやがるっー!?」「ゾンビガラスまで来たぞー!」
「もう駄目だぁー!」
トルはすぐに扉をパタンッと閉じた。
この広大な部屋の中にいるゾンビ達が外に出たら……きっと、それは世界の破滅を意味する。
そんな気がした。
「た、大変じゃよっ!
わっち、ゾンビを初めて見たでありんすっ!
どうすればええんじゃろう!?
ブルーもイエローも手伝うでありんす!」
「「わかった」」
そう言われてブルー達も必死に扉を抑えた。
必死に……そう、必死に……笑いを堪えながら扉を抑えた。
《ゾンビ映画って奴かな?イエロー》
《僕は最近の走るゾンビ物が嫌いです。
やっぱりゾンビはノロノロ動いた方が様式美って奴を感じますよ》
《私としては和風ホラーの方が怖いね。
怨霊が無差別に相手を呪い殺したり、全世界に呪いが広がって破滅する感じの内容とかこわいだろ?》
《和風ホラーは作る難易度が高すぎて、名作少ないですよ……ほら、リングの貞子は名作ですけど、それ以降の作品は微妙ですよね?》
二人の秘密の通信を他所に、トルは震えた。
全世界の命運が自分にかかっている。
そう思い込んでいた。
「わっち、どうすればええんじゃろ?
ブルーを置いて逃げてもええかの?
でも、友を置いていくのは駄目じゃしのう。困ったのう、困ったのう」
エルフ耳が元気を失って下に垂れていた。
《この少女、本当に可愛いよ》
《耳って萌えますよね。僕的には獣耳の方が可愛いと思いますけど。陛下の嫁のミーニャン様とか良いですよね》
《お嫁さんにしたい》
《僕もお嫁さんがほしいです……提督》
「こうなったらダンジョンそのものを燃やすしかないかの?
でも、そんな燃料は何処にもないのう。
困ったのう。困ったのう。どうすればええんじゃろ?」
トルは考えるに考えた。
でも、答えは出なかった。そうやってずーと彼女が悩んでいる内に、ブルーがある事に気づく。
《ねぇ、イエロー》
《どうしました?》
《このデパート……高性能すぎないかい?
電気はちゃんと通っているし、水も新鮮だ。
完全自給自足のインフラ設備つきのデパートなんて聞いた事がないよ?》
《本当だっ!凄いオーバーテクノロジーの塊だ!》
イエローも気づいた。
このデパート。全く普通じゃない。
エスカレーターは24時間連続稼働。テレビも24時間付けっぱなし。映画も24時間付けっぱなしという電力を消費しまくりなのに……この世界に転移してから、稼働し続けている。
ここは宝の山だ。未知の技術が眠っている。
イエローは艦隊旗艦ダブリスへ連絡を取る。
《こちらはイエロー!ダブリス応答してください!》
《どうしました?イエロー》
旗艦の機械頭脳ダブリスが、レースゲーム『ナポ・カート』をしながら通信に答えた。
《とんでもない宝の山を見つけました!
今すぐ僕達がいる上空にワープしてください!
ワープアウトしたら、僕達がいる建物ごと、本国近くに有る、人が住んでいない浮遊大陸へとゆっくりとワープしてください!》
《了解しました。イエロー》
通信が終わった。ブルーとイエロー達はやる事がなくなったから、トルお嬢ちゃんを優しい目で見つめて時間を潰す。
小さなエルフ娘が一生懸命考えている様を見るだけで萌えた。少女はどんな答えを出すのだろうか?
「そうじゃ!
わっち良い事考えたかの!
ゾンビがいるのはこの四階層のここだけっぽいのう!
ここだけ燃やせばええんじゃよ!」
何をするのか決めたトルはブルー達に顔を向ける。
「ブルー!イエロー!
何か燃えるものをもってきてくれんかの?」
少女は可愛く首を傾げた。
その愛らしさに萌え殺されそうな気分になった機械歩兵達だった。
……結局、最上階にある映画館への放火を諦めさせるのに、1時間の時がかかった。
トルは大量のビー玉を嬉しそうに集めて、ブルー達と一緒にデパートの外へと出る。
夕日が地平線の彼方から出て美しい。
新しい友達もできて少女は幸せだった。
「今日は頑張ったのう。成果もあって充実した一日じゃよ」
しかし、外に出た事で異変に気がついた。
外に1万隻の宇宙艦隊が飛んでいる。
モッフフー帝国のスタイリッシュ宇宙艦隊だ。(この世界には宇宙は存在しないが、宇宙空間がある世界からやってきた皇帝の軍勢だから、宇宙艦隊なのだ)
大きいのは1kmサイズ。小さいのは10mサイズの流線状の艦艇が浮いている。
この非常識すぎる光景にトルは驚いた。
「わっち、異世界に迷い込んでしまったのかの?」
デパートの周りに広がる光景も、森林地帯から平原地帯になっている。
モッフフー帝国に住むエルフ娘が1人増えた瞬間だった。
《エルフ娘ごとお持ち帰りしちゃったよ》
《提督、これ……拉致じゃありませんか?》
《げ、元帥の給料あるから生活の面倒は見れるし。トルちゃんを惚れさせれば問題ないさ》
《機械とエルフの恋……ああ、破局が目に見えるようです》
持ち帰ったデパートは、ナポ陛下から高く評価された。
ありとあらゆる製品に未知の技術が大量に使われ、地球の映画作品が10万作品。漫画は100万作品があり、文化的価値もある。
おかげで臨時ボーナスが出た。
エルフ娘からモテた。
★お後がよろしいようで★
「……という事があったのさ」
「おかげで僕達、たくさん金を貰いました。
一気にパァーと使うつもりなので、持ち帰り用のラッキーオイルを千本ほど下さい」
ブルーとイエローは長い話を終えた。
チビチビと飲むラッキーオイルが美味い。
ほんのりとした甘さ。機械部品に良さ気な潤滑剤っぷり。
動物には全く理解できない食文化だ。
だから、この美味しいオイルを作れるのは、ラッキーだけ。
当然、一般のオイルと比べると、価格も恐ろしいほどに高い。
「ブルーさん達、とっても面白い経験をしたんですね。
私もそのトルっていう娘を見てみたいです」
ラッキーは少し申し訳ないという感じの笑みで話を続ける。
「あと、イエローさん……ラッキーオイル千本はさすがに備蓄ないですね。
そんなに作り置きしてないです。
味見役の機械歩兵さんがいないと、未だに美味しさを維持できなくて……すいません。
一回、飲んでみましたけど……私の身体に合わなくて大変でした」
ラッキーが頭を下げた。ブルーとイエローは首を360度回転させて驚いた。
幼いエルフ娘(100歳)の努力に感動した的な意味で。
機械歩兵のために、わざわざ美味しいオイルを作ってくれる。
異次元すぎる機械歩兵の食文化を理解してくれている証だ。
そんな娘に反感を持てるはずがない。
《ラッキーちゃん、良い娘すぎるね。イエロー》
《僕もそう思います。機械歩兵用の特製オイルを作ってくれる店はここだけです》
《お嫁さんにしたい》
《やめろ!ラッキーちゃんは陛下の孫娘ですよ!
というか70年付き合ってる恋人いますよ!》
通信で両者が会話していると、店のガラス扉が開いた。カランカランッと鈴の音が鳴る。
そこには魔女娘ローブを着たエルフ娘が居た。
120歳ほどの幼い銀髪の少女は、ブルーに妖艶な笑みを向ける。
「ブルー。今日はわっちと一緒に、この国を観光する予定じゃったろ?
わっち、寂しいのう」
ブルーは席を立つ。去り際に通信を送った。
《リアルの嫁って最高だよね、イエロー》
《子供作れないでしょ!?》
《精子バンクで問題は解決さ》
《そこまでやるのか!?アンタという機械は!》
青い機械歩兵と銀髪のエルフ娘。二人は手を繋いで店から去っていく。
ラッキーは超異色カップルを見て――顔を真っ赤にした。
「え?
ブルーさんの話って本当だったんですか?
てっきり法螺話かと思ってました」
《なんてひどいオチだ!
僕もリアル嫁が欲しいです!》
「イエローさん、新作の超特製オイル飲みます?」
《え!?通信が盗聴されてた!?》
ラッキーは、オイルが入った容器を置いた。
イエローは容器を掴み、やけ酒感覚で一気に口の中に入れる。
――宇宙だ。僕の目の前に、暗黒の宇宙空間が広がっていた。
オイルを入れた瞬間、機械頭脳が宇宙空間を感じ取る。
1200年ぶりに見る宇宙。どこか懐かしさを覚える。
ああ、銀河系の中心にブラックホールがある宇宙こそ、僕達……機械歩兵の心の故郷だ。
空が無限に広がるスカイワールドは、何処に行っても大気があるから、亜光速航行ができなくて辛い。
亜光速航行したら待機摩擦で自滅だ。
だが、この場所なら亜光速航行ができる。
見よ、あの宇宙を。銀河と銀河同士が衝突して超巨大ブラックホールを形成している。
この圧倒的スケールこそ機械歩兵達が求めるロマン。
宇宙よ、ありがとう。母なる宇宙に感謝。
「モッフフー」「モッフフー」「モッフフー」
宇宙中から二頭身の狐娘達が出てきパチパチッと拍手してくる。
おめでとう、おめでとう、おめでとう、おめでとう。
――そして、ありがとう。
「どうでした?美味しいですか?」
《……僕の目の前に神様がいます。
ラッキーちゃん、アナタはどんな神ですか?》
宇宙空間で女神のように輝くラッキーは首を可愛く傾げた。
「料理の神様なら、この前、ハンバーグ定食作って倒しましたよ?」
4話「ダンジョンがある国とオイル」
おしまい
過去編
殺人料理人オイラー(
^ω^)へへへへっ……!
俺は石油から食用油を作る天才だっ……!
ラッキー(´・ω・`)す、すごい!尊敬しちゃいます!
どうやって食用にしたんですか!?
殺人料理人オイラー(
^ω^)飲んだら死ぬ!
ラッキー(´・ω・`)?!ゆ、許せないっ!
そんなの料理じゃありませんっ!
殺人料理人オイラー(
^ω^)ぐはぁー!うわようじょつよいー!
ラッキー(´・ω・`)料理人以外は物理で殴る!
オラッ!オラッ!オラァー!
審査員(´;ω;`)(´;ω;`)もう……料理ですらない……
ただのバトルだ……
現代風ダンジョン!とかどうだろう?
http://suliruku.futene.net/uratop/Dai/Syousetuka_ni_narou/259.html
(´・ω・`)作中内で使い切れなかったネタは、上にあるんじゃよ
今回のコメントまとめ+作者感想さん
http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Erufu_no_isekai_syokudokuraku/c7.html
【小説家になろう】
本好きによるワンランク上の内政チート!、 主人公『地球の暦を採用すれば!何時、作物が取れるのか分かる!』 モブ「すげぇぇぇぇ!」
http://suliruku.blogspot.jp/2015/11/blog-post_17.html
【小説家になろう】
無職転生のCMが痛すぎる件。
http://suliruku.blogspot.jp/2015/11/cm.html