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エルフ娘の世にも不思議な旅

6国目 半万年の歴史を持つ偉大な国 後篇



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王子様は、ラッキーに魔法をかけられて長い長い夢を見ていました。
まず、最初に見せられたのは、エルフがどれだけ化物なのかを証明する日常風景1000年分でした。
1人のエルフの小さい少女が、巨大な大陸を風の魔法で真っ二つに破壊し、人類側の反撃の戦略核ミサイルで死んだら、エルフの少女はオーストリア大陸サイズの巨大植物【世界樹】と化して、幾つものの国を瞬時に滅亡させています。
世界樹の枝の一つ一つが小国サイズ、
世界樹のエルフよりも遥かに強大なバリアーは、戦略核兵器や放射能すら完全に無効化して、人間はその地に誰も住めなくなりました。
人間の国は、エルフに恐怖して戦争を仕掛けますが、いつもいつもユーラシア大陸サイズ以上の領土を失い敗退。
自然とラッキーの故郷周辺は、世界樹だらけになり、人間が全く住み着かない場所になっていました。
この世界のサイズは木星(地球サイズの台風が存在する星)よりも大きくて、土地がいくらでも余っていた事もあり、人間とエルフは全く違う場所で生活し、お互いに交流する事もなく、何年も何年も経過しています。
ラッキーは人間と会えないから暇で暇で仕方なく、悠久の時を森の中で安穏と平和に暮らして、退屈で死にそうでした。
世界樹の枝の上でゴロゴロと転がり、呑気です。

「あー、暇で辛いよー。
退屈で死んじゃうー。
戦争でもいいから、人間が攻め込んでこないかなー 」

おしまい
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王子様はこの光景に耐えきれず絶叫しました。
何に耐えきれないかと言うと、1000年分の情報を、王子様の脳味噌が処理しないといけないから、頭が痛くて辛い的な意味です。

「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!! 」

「あ、ごめん。
私達エルフのつまらない日常生活を見せても退屈だよね。
他の人間の国の光景に変更するよ」


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ラッキーは、王子様に見せる夢の内容を、王子様の国の周辺国の内容に変えました。
今回からは短い内容なので、王子様の脳味噌でも情報を処理できます。
まずは北方の大国「ロシアヤー」。
そこは寒い寒い国で、海すらも凍る広大な氷の国です。
寒すぎて、国民はアルコール度数が高い酒を浴びるように飲んで、凍死しないように必死。逆に酒の飲み過ぎて死んでしまうくらいに寒い国なのです。
この国は、ここ500年の間、凍らない港を求めて、南の国々に攻めこんで戦争しますが、その度に現地の国々に撃退されて敗退続きの悲惨な国でした。
でも、王子様の国よりも発展し、幾つもの高層ビルがそびえ立つ大都市を複数作り上げ、生きるのが辛い土地でも彼らは生きていました。
大半がラッキーの歴史知識で補正されているイメージ映像でしたが、人間は叩かれても叩かれても這い上がる生き物な事が分かります。

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王子様は、この内容を見せられて呟きます。
人間の逞しさを見せられて感動したようです。

「……これは、北の大国ロシアヤーか?」

「うん、そうだよ。
君の住んでいる所よりも、凄く寒くて大変なのに、戦争に何度も敗北しては、また侵略を繰り返してはボコボコに負けているのに、諦めずに這いあがってまた敗戦しては、国民が奴隷のように必死に働いて、周りから大国だと認識されるようになった国だよ。
君の国がなくても、この国は大国だったんじゃないかな?
それに、ロシアヤーが使っている技術は、君の国とは全く関係ないよ?」

「そんなはずはない!
余の国は、ロシアヤーのために、防寒着を作る技術を教えて、寒い場所でも暮らせるように彼らを徹底的に善意で支援したのだ!
ロシアヤーが大国になったのは、余の国のおかげなのだ!
化物は嘘を言っている!」

王子様は信じませんでした。
なぜなら、素直にこの内容を信じる事は、今まで習った常識を全否定し、心の寄り所となるアイデンティー……【自分は何者であり、何をなすべきかという個人の心の中に保持される概念】を破壊する事になるからです。

「防寒着も他の技術も彼らが自分達で産みだした道具だよ?
例え、君の言う通りそうだったとしても、なんで君の国はロシアヤーよりも貧乏で発展してないの?
さっき見せたよね?
何回も何回も戦争に負けて、立ち上がる
ロシアヤー の国民の姿。
貧乏なのは君達の責任なんじゃないかな?」

「そ、それは周りの国々が、余の国から富を奪ったからだ!」

「まだ、納得しないようだし、次の国を見せてあげるよ」

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王子様が次に見せられた内容は、東の海洋大国【ジャパンヤー】でした。
そこは水と森林資源に満ち溢れた豊かな土地でしたが、工業を発展させるための石油などの資源に乏しく、資源を輸入しないと大国を維持できません。
国民は必死に働き、国中で【24時間働こう!】という恐ろしい労働推奨番組が流されている国なのです。
王子様は、この国を見て青ざめました。
国の労働者はひたすら労働労働、休まずに働き、家に帰るのは夜の12時、朝起きるのは5時という常軌を逸した光景が流れ、挙句の果てには二週間家に帰らずに職場で働いている労働者の姿が見えます。
しかも低賃金。残業代なしのサービス残業。
人間の家族がぎりぎり生活できる程度の金で、ここまで働いてるのです。
豊かだけど、人間の暮らしを放棄していました。
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「うああああああああああああああああああああ!!!!
働き過ぎだああああああああああああああ!!!!
やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「?
人間の子供には刺激が強過ぎたかな?
人間の短い一生を労働のために消費して凄い国だよね。
この国が発展してるのも、君の国のおかげなのかな?かな?
この国の技術も、君の国とは全く関係ないよ?」

「わ、わかった!
認める!
ジャパンヤーが発展したのは、余の国のおかげではない!
あの国が異常だからだ!
ジャパンヤーは、この世に舞い降りた地獄だ!
だが、余の国が5000年の歴史を持つ偉大な国である事に変わりはない!」

王子様の返答に、ラッキーがクスクスと笑いました。
気分は、楽しい玩具を手に入れた子供です。
ラッキーは王子様の常識をぶっ壊すために、最後の夢を見せます。

「じゃ、周りの国々が、君達の国をどう思っているのかを見せてあげるよ。
世界が可笑しいのか、君の国が可笑しいのか。
これを見て答えを出してね」

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王子様が次に見せられた夢は、周辺国が王子様の国をどのように思っているか、認識しているかでした。
西の国に住む住民達は言います。
「え?あの国?俺達の国の永遠の奴隷だ」
「3000年間、俺達に金と女を貢いできた属国」
「5000年の歴史は俺達の国の歴史だろ。勝手に奪うなよ」

北の国に住む住民達は言います。
「え?知らん」
「●●っていう大国の一部じゃないの?」

東の国に住む住民達は言います。

「いつも、謝罪と賠償を要求してきてうざったい」
「あれだけ湯水のように技術とお金を上げたのに、逆恨みしてくる上に、なんで中世の暮らしをしているんだろう」

南の国に住む住民達は言います。

「さすが半万年の歴史があるっていう嘘を信じ込んでいる国ですね!お兄様!」
「そんな嘘信じるのは、あの国くらいだよ。そんな国、そう滅多にあるものじゃないよ」

周辺国の住民は、皆、王子様の国の事を否定していました。
誰も5000年の偉大な歴史なんて認めていません。
皆が嘲笑い、5000年の歴史とやらを馬鹿にして、王子様の国を否定しているだけです。
そもそも5000年の歴史を証明するための公正な証拠や根拠が、王子様の国には何一つなく、 た  だ の 妄 想 だ と 笑 わ れ て  い まし  た 。
証拠として出されている史料も、過去の文献に記された文字が読めないから、とてもいい加減で、5000年の歴史を証明する証拠になっていませんでした。

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王子様は、自分の国が周りからどのように認識されているのかを知ってしまって

「誰も……余の国を認めてない……5000年の歴史は嘘……ひ、ひやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

発狂しました。
今まで信じてきた偉大な5000年の歴史なんて、自国以外では全く通用しない嘘だと、ようやく理解したのです。
そして、自分達の国が想像以上に、他国よりも遥かに未発達で劣っている事が、王子様の劣等感を刺激し、多大なストレスを与えています。
他国じゃ高層ビルがあって当たり前なのに、王子様の国に並んでいるのは一階建てのボロボロの木造建築ばっかりなのです。

「ねぇねぇ、大丈夫?」

ラッキーは、発狂した王子様の顔をペチンペチン叩いて、正気に戻す努力を試みます。
でも、王子様の叫びは止まりません。涙や鼻水が大量に出て、その絶望は終わりそうにありませんでした。
ラッキーは困ります。
頭にいる妖精さんを見上げて

「妖精さん、私どうすればいいかな?」

「ラッキー……人間が面白いからって、発狂して壊れるまで遊んじゃ駄目だよ!
この少年が可哀そうすぎるよ!
鬼畜っー!」

妖精さんがラッキーの頭をポコポコ、小さすぎる手で殴ります。
ラッキーは大した痛みがないので妖精さんの抗議を無視して考え込み、名案を思い浮かんだような顔で

「えい!」

「ヒデブッ!」

王子様のお腹を右ストレートで殴って気絶させました。
こんな時、いつもラッキーはちゃんと拳の所だけ風のバリアーを一部解除してあげている所が優しいです。
解除するのを忘れていたら、王子様の身体がバラバラになっている所でした。

「もうやだ、このエルフ」

妖精さんは嫌そうな顔で呟いていました。








「はっ!夢か?!
……ば、化物っ!!!?」

王子様が、次に目が覚めた時、今まで起きた出来事は夢だと思い込もうとしていましたが、目の前にラッキーが居たので、今までの光景が現実だとすぐに理解しました。
ラッキーは可愛らしい笑顔で

「ねぇ、5000年も国の歴史があるって、今も言えるの?
君の国、建国されたの60年前で、最近出来た国だって理解したよね?
それとも私の記憶や、世界が可笑しいのかな?かな?」

「……嘘だと認めてやろう。
この化物め。」

長い沈黙の後、王子様は渋々と認めました。
とても長い長い悪夢を見たような、そんな気分になっています。
でも、心は辛うじてギリギリ、奇跡的に折れていませんでした。
王子様はラッキーの顔を見つめて

「だが、余が国を変えてみせる。
王位を引き継ぎ、5000年の歴史に勝る偉大な国を作り上げて、化物を驚かせてやる!
また、余の国に来るがいいぞ!
化物!
その時、余の偉大さにひれ伏して謝罪するなら、配下にしてやらないでもない!」

「うん、楽しみにして、また訪れてあげるよ。
じゃ、国に帰ろうか」

これがラッキーと王子様との最後の会話です。
ラッキーは王子様をすぐに国に戻して、また新しい旅に出ました。
二人は二度と会う事はなかったそうです。













ラッキーは100年後、思いだしたかのように王子様の国を訪れました。
そこは相変わらず貧乏で1階建ての木造建築ばっかりが並ぶ貧困国です。
木を曲げる技術すらなく、水を瓶で汲み、技術も大して発展していませんでした。
ラッキーは近くにいた30代のボロボロで、汚い白衣を着た男に問いかけます。

「ねぇねぇ、この国ってどんな国ー?」

「あ?
この国の事を何も知らねぇのか?
この国はな……1万年の歴史がある偉大な国なんだよ!」

100年前に別れた王子様に何があったのか分かりませんが、歴史が二倍に増えていたそうです。







6国目 半万年の歴史を持つ偉大な国 後篇

おしまい

テーマ【嘘を嘘で塗り固めたらこうなる】


 

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●全ての国家の起源、技術の起源を持つ凄い国

●見てください!異世界の四大文明を作り上げたのも私達なのです!
偉人も全部私達の先祖です!

●銃を作ったのは、私達です!
城壁を作ったのも私達です。
火を最初に発見したのも私達です。
全ての宗教を作り上げたのも私達です!

●城壁を作ったのも自分です!

●ああ!私達はなんて偉大なのでしょう!
全世界は私達に感謝して、謝罪をして賠償を寄越すべきなのです!
私達は世界一偉大な民族!


●自慢しているだけで、自分達じゃ何にもできない人達。
偉そうにしすぎて、旅人も寄りつかず、技術を教えてくれないから、中世の暮らしのまま。


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