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9国目  わらしべ長者の国なのです 後編
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さぁさぁ精霊さん。このプールつきの豪邸と高そうな物を交換してくれそうな人間さんを探して欲しいのです。
褒美は三日間、ギューと優しく抱きしめてあげる刑。

【すぐ近くに大量の札束を持って、家を探している人がいるよ。抱き締めて抱き締めて】

光の精霊さんがそう叫びながら、私の胸元へと飛び込んできました。
あとで散歩旅をしている最中に、抱き締めてあげるのです。
精霊さんも若い子が好きなんですかね?
最近、懐かれすぎて凄いのです。
さて、今はこの無駄に豪華な豪邸を金品に変える事が優先ですよ。
精霊さんに教えられた方向を見ると、30mほど離れた場所に、こちらをじーと見ている20代前半の若い青年が居ました。
顔はまるで猿という印象を抱いちゃう感じに丸く、人懐こい雰囲気をしているのです。
手に大きく膨れ上がったカバンを持っていますから、これが札束ですかね?
早速、物々交換といきますよ!楽しくなってきました!

「率直に言いますけど、あそこの豪邸とその鞄の中身を交換しませんか?」

「え?え?今なんて?」 猿顔の青年がとても驚いて聞き返してきました。

「そこの鞄の中に入っている札束全てと、私の豪邸を交換して欲しいのです」

「本当のいいのかっ!?」

「はい、私は旅人だから家は要らないのです。
なら、さっさと処分してお金に買えた方がお得ですし」

「よっしゃ!
ならこの鞄ごとくれてやるよ!
俺の名前は豊臣秀吉って言うんだ!
今度あったら色々とお礼するよ!」

そう言って青年は私の足元に鞄を放り投げて、豪邸へと入っていきました。
今日は自称【日本の偉人】が多くて困るのです。
豊臣秀吉といえば、織田信長の後をついで、日本を支配して新しい政権を築いた過去の偉人じゃないですか。
きっと、あの人も地球からこの世界に来て頭が狂ってしまったに違いありません。
あと、土地の権利書とか何処にあるのかすら、私は知りませんけどこれでいいんですかね?
きっと家の中に権利書があると思いたいのです。
精霊さん、権利書らしき紙って家の中にありますかね?

【家の中に権利書?ないよーないよーさっきの金柑ハゲ頭の懐だよー今は血液で真っ赤で文字も読めないよー】

……兎に角、鞄の中身を確認しますか。どうせ国を出れば無問題なのです。
鞄のチャックを開けると、中には山のように札束が入ってました。
紙幣には恐らく、この国の偉人と思われる老人の顔が刻印されています。
この量だとどれくらいの価値がありますかね?
きっと豪邸よりは安い価値しかないんでしょうけど、私にはそれで十分なのです。
鞄のチャックを閉じて、よいしょっと力を込めて鞄を持ち上げます。重いですけどこれをこの国で全部使って、金品と交換して、師匠の異次元ポケットの中に収納すれば、しばらくは旅費に困らないのです。
ホテルに泊まりたい放題。ふかふかのベットに眠って高級なランチを食べて、贅沢三昧ができるに違いないですよ。
困りましたねー。
師匠が未だに黙ったまま、私を見て微笑ましそうな目線を向けてきました。子供が精一杯重いものを必死に運んでいる光景に見えるせいですかね?
私はそれに満面の笑顔で返事を返します。ニコリ。
師匠が苦笑してクスクス笑ってくれました。好きな人を笑顔に出来るって素敵な事だなっと思う訳です。
早速、地下通路の入口近くにあった両替商へと向かいます。
そこでお金を得たら、両替商の隣にある異世界スイーツ店でじゃんじゃんお菓子を買って食べて、懐かしい日本の味に浸るのですよー。
あ、今、血まみれの日本刀を持った自称【織田信長】がプールつきの豪邸へと入って行きました。
激怒しすぎているせいか、周りに少量の炎の精霊さんがまとわりついてます。
炎の精霊魔法使いになれる素質があるのです。

「ぎゃー!信長様だぁー!」

「猿っー!貴様が俺を裏切り、本能寺を焼き討ちした真犯人だと知ったぞ!
観念せいー!」

「ち、違う!
あれは軍師の黒田カンベエが全て悪いんだ!
あいつが信長様を殺せば、俺が天下を取れるって言ってきたんだ!
【殿の御運が開ける方法を思いつきましたぞ!信長公を殺せばいいのです!】って言ったんだ!
だからあいつが一番悪い!
そ、それに、ほ、ほら、俺、邪悪すぎる黒田カンベエを冷遇して九州の僻地に追い込んで苛めたし、それで許してく」

「うるさい!農民の小倅を大名にしてやった恩を忘れた裏切り者がぁー!猿は死ねぇー!」

「ぎゃぁー!」 バタン

……なんか、また酷いセリフを聞いたのです。
これ気のせいじゃないですよね?
どうしましょうか?
今から行っても蘇生間に合いますかね?
精霊さん達に聞いてみるのです。

【首だけになってるから無理】
【無理無理ーでもエルフなら無茶してでも治すー人間治すのやだー」

そうですか。
もう助からないのですか。
冥福を祈るのです。
あと、警察に通報した方がいいですよね?
えと、地下通路に設置されている公衆電話を使いましょう。
緑色の受話器を取って110のボタンをポチッとな。異世界でも警察への電話は110番なのです。

「はい警察です」

「あ、殺人事件が起きているのです。
場所とか住所とか、詳しく分からないんですけど、刀を持った殺人鬼が暴れているから、来て欲しいのですー
あーれー殺されちゃうのですー」

ガチャンっ。受話器を元に戻しました。
これで完璧なのです。
あとはここの警察が無能じゃない事を祈るだけでした。






時間をかけて鞄を引き摺りながら地下通路を歩いて、地下通路の入口近くへと戻ってきました。
異世界スイーツ店の隣にある両替商は、ガラスケースの中に色んな国々の貨幣を展示していて、椅子にオカッパ頭の妙歴の女性が座っていて、胸元に【日野富子】と書いた名札をつけているのです。
【日野富子】といえば、戦国時代そのものを産んだ諸悪の権化に等しい悪女なのです。
室町幕府8代将軍足利義政の正室であり、敵・味方関係なく大名達に金を貸し付けて、応仁の乱という大規模内戦をやらせて長期化させ、莫大な財を築き上げて溜め込み、室町幕府の権威をぶち壊しまくり、日本中で覇権を求めて大名達が争う戦国時代を築き上げた守銭奴なのです。

日野富子(´・ω・`)へっ!将軍なんてなぁー!義という名前が付いていれば誰でも良かろうなのだぁー!息子が死んだら!甥!それも用済みになったら次は義政の甥っ子が将軍よ!
金儲けのためならば、日本全国が戦争になっても良かろうなのだぁー!

大名(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)なんだ、将軍ってのは一人のオバサンが自由自在に変更可能な職業なん?権威なさすぎ笑った。
下克上じゃぁー!

という理由から、日本史で最低最悪の悪女という異名を持つ有名な女性なんですよ。
まぁ、どうせ、この人も自称【日野富子】だから関係ないですよね。
師匠に店のガラス扉を開けてもらって、私は頑張って鞄を運び、日野富子の前にある机へとドサッと載せました。
日野富子はとっても驚いた顔をして、こっちを見ています。
私は大金を持っている事そのものに誇らしい気分になって、ラッキー金貨辺りに交換してもらおうと

「この鞄の中身の紙幣を、ラッキー貨幣に交換して欲しいのです」

「ん?ああ、お客さんね?
どれどれ」

日野富子は鞄のチャックを開けて、中の札束を見ました。
すると驚いた顔をして、私と札束の両方を何度も何度も繰り返し見て

「……おいガキ」

「はい、なんでしょうか?」

「これ偽札だよ。
ちょっと警察を呼ぶから、そこで待ってな!
この犯罪者め!
偽札造りは死刑だという事を知らないのか!」

「ふぇっ?」

日野富子は店の壁に設置された紅い防犯ベルを叩くために立ち上がりました。
でも、ベルを叩く前に師匠が風の精霊達を使って、日野富子の身動きを封じ、そのまま睡眠ガスを吸わせて床に寝転がします。
さすが、師匠ありがたいのです。
相手を傷つけずに倒す方法が思いつかなくて困っていた所ですよ。
師匠は呆れながらも親しみを込めた笑顔を私に向けてきて

「やれやれ、ヴィクトリア。
アドバイスをしたら修行にならないから、今まで黙ってみていたけど、最後はダメダメだったね?」

「……師匠はあの札束を偽札だと理解していたのですか?」

「ああ、この国の通貨は風の精霊達に教えてもらって知っていたからね。
あれが偽札、もしくは旧札の類だと思ったんだ」

「なるほど、精霊魔法は奥が深いのです。
私はまだまだ使いこなせてませんね」

「僕達エルフはいくらでも時間がある。
精霊との付き合い方をゆっくり覚えればいいさ」

そう言った後、師匠の左手が私の頭を撫で撫でしてきました。
それだけでとっても、私ははにゃーんな気分になります。
子ども扱いされてますけど、何時か、絶対1人の女として振り向かせて、師匠のハートをキャッチできたらいいなぁーと思う訳です。

「それよりも、ヴィクトリア。
異世界の事に詳しいのは何故なんだい?
何処かの本で読んだのかな?」

どうしましょう。
これは素直に全て話す機会と見るべきですかね?
前世の事を話したら13歳の若い娘じゃなくて、ロリババアだとばれてしまいますけど……まぁ、気にしないですよね。
エルフの寿命って無いようなものですし。
イエニーさんとか130歳ですよ、130歳。
私はまだまだ若いのです。

「師匠、その件については旅をしながら話すという事でいいですか?
偽札を持っていたという事で面倒事になるかもしれませんし、こういう話は国外でゆっくり散歩しながらしたいのです」

師匠は私の頭を撫で撫でするのをやめて

「ヴィクトリアがそうしたいなら、そうしよう。
この国は国全体が地下街や地下通路に家があるから、僕個人としてはまだまだ探索したかったけどね」

こうして、私の前世の事を国外で散歩しながら話す事が決定したのです。
その話は後日するとして、怖い怖いホラー話を近隣諸国で聞くことになった事をここに明記しておきます。
なんでも、耳が尖っていて、小さくて可愛い金髪の女の子が、人間に物々交換を持ちかけてくる話なんですけど、物々交換に応じると【妖怪 光秀も秀吉も死ねー】に変身して首を切断するらしいんです。
もしも、物々交換を持ちかけられたら、千利休工房製の茶器か、和菓子を渡せば、【妖怪 光秀も秀吉も死ねー】……もとい織田信長に殺されずに済むというオチが物語についていて、あちこちで千利休さんたちが作った茶器や、日本製のお菓子を見かける事になりました。
つまり、この世界では、わらしべ長者がホラーな怪談になってしまった訳です。
まぁ、私が物々交換の結果が結果ですから、不幸話なんですけどね。

★交換したもの
【師匠からのお小遣い】銅貨10枚+日本の話

【異世界スイーツ店】ソースセンベエ1000枚 

【千利休】(国宝な)茶器

【織田信長】 浅井長政の髑髏(金メッキ)

【明智光秀】 プールつきの豪邸

【豊臣秀吉】 偽金

【日野富子】犯罪者の地位

見事にわらしべ長者大失敗。
お金は簡単には稼げないという事がわかったのです。
今回の出来事のせいで、近隣諸国に訪れるだけで、私を見た子供達が指を指して

「あ、あんな所に耳が尖った娘がいるー!」
「きっと、【妖怪 光秀も秀吉も死ねー】だ!」
「やーい!【妖怪 光秀も秀吉も死ねー】!」
「わ、和菓子をあげるから助けてー!」
「水飴あげるから殺さないでー!」

たくさんの和菓子を無料で食べたい放題だったのです。



わらしべ長者の国なのです
おしまい

テーマ@【日本の歴史   戦国時代】
http://suliruku.futene.net/1uratop/rekisimono_Nihon.html

あとがき

(´・ω・`)複数の歴史人物想像しながらプロっト考えるの大変だったでそうろう

  

死んだの 明智光秀と豊臣秀吉 
生存 千利休と異世界スイーツ店のお爺さん(師匠、花丸製菓の人)、織田信長、日野富子

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●物々交換の国なのです

ヴィクトリアが光の精霊魔法の修行ついでに、お金稼ぎ。
具体的には、銅貨1枚で購入した物を、光の精霊魔法で欲しそうな人を探して、どんどん高価な物と交換していく。

銅貨 ☛ 美味しい棒 ☛ ガキ大将☛センベエの入った袋、おいしそうなのです ☛ 

織田信長にそーすせんべえ プレゼント

織田信長から浅井長政のしゃれこうべ(金箔つき)の酒盃をもらう

●明智光秀が逃げたいから、家と交換してくれる。⇒ 織田信長やってきて殺し合いになる

● でも、旅に持っていけないよね? ☛  

他国から引っ越してきた豊臣秀吉に売る。
1兆ジンバプエートル ☛ あ、その国、セルフ自己経済制裁して、紙幣が紙キレになったよ。☛ そんなー

●異世界でわらしべ長者ならぬ、紙キレ長者が産まれた国



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