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3話 豚の国A
「わっちの初夜が台無しでありんす」  白真珠は泣いた

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全長1kmを超す巨大戦艦ツァーリ。その内部に存在する無数の部屋の一つに……大きな円卓を置いた会議室がある。
そこにナポから呼び出された6元帥とその副官達が集まっていた。
円卓の周りに置かれた椅子へと座り、それぞれ仲良く雑談している。
ただ、種族が違うせいか――機械歩兵は機械歩兵同士で、エルフはエルフ同士で会話していた。

「ナポ様は……私達をどうして呼んだのだろうか?」

まっすぐな性格のレッド元帥が疑問をぶちまけた。それを隣に座っているブルー元帥が

「……ミサイルを撃ってきた国への対処問題じゃないかな?」
「ナポ様の指パッチン一つで全部終了するだろ?」
「ですよねー」

ブルー元帥が首を360度回転させながら肩をすくめると、隣にいるピンク元帥が憂鬱そうな雰囲気で

「それよりも給料を払って欲しいわねぇ。
エネルギーはナポ様の魔力のおかげで無尽蔵だけど、金属資源が残り少なくて心細いわ。
新鮮で美味しいオイルも飲みたいわよ」
「ですよねー」

先ほどから可笑しい事に、レッド、ブルー、ピンクの3元帥は穏やかな会話を『適当にしながら』――円卓の向こうにいる黒真珠を睨んでいた。

(奴め、何を考えているっ……!ナポ様の害になるなら、ここで撃つ!)
(危険だ。私のネットゲーライフを終了させそうな、そんな危険すぎる眼だ、イエロー)(思っている事を通信で流さないで下さい、提督。黒真珠さんにばれますよ)
(危険だわねぇ。何を考えているのか分からないわぁ。白真珠はどうしてあんな邪悪な娘と会話できるのかしら?)

全ての原因は、黒真珠の酷い目付き。
仕えるべき主『ナポ様』すらも、そこらへんに転がっている石コロと同価値と思っているに違いない恐ろしい眼。
周りから、彼女はそう勘違いされていた。

「妹よ、もう少し愛想を良くした方がええんじゃよ?」

この場で黒真珠の事を心配してくれるのは、陶磁器のように美しい肌を持ち、白いドレスを着たエルフの少女『白真珠』だけ。
愛情たっぷりの無邪気な笑みを、黒真珠に向けて接してくれる。

「笑顔じゃ、笑顔が大切なんじゃよ?
そうすれば妹をお嫁さんにしてくれる素敵な男性が出てくると思うでありんす。
わっちみたいに笑えば、人生楽しいんじゃよ?
ほら、ニパァーと笑うでありんす」
(白お姉さま大好き!とっても可愛いよぉー!
私も白お姉様みたいに会話できたら良いのになぁー)

しかし、黒真珠の後ろに座っている副官ホワイトが問題だった。主に通訳的な意味で。

「白真珠様。黒真珠様は『私に近づくな、死ねBAA!うざいっ!』と言っておられます」
(大好きな白お姉さまに何を言ってるの!?ホワイト!?)

「妹はツンデレじゃのう、可愛いのう」

幸い、白真珠はホワイトの通訳を気にせず、顔を近づけて頬っぺたをスリスリしてくるくらいに、妹を溺愛していたから大丈夫だった。

(お姉さまの頬っぺた。すごくモチモチして気持ちいいよぉ……。
お姉さまが居なかったら、私、孤独すぎて自殺してたかも?)
「黒真珠様は『頬をスリスリするな、糞ロリBBA!肌がゴツゴツしてるんだよっ!』と言っております」

「言葉の割には嫌がっておらんの?妹は本当にツンデレじゃな、ツンデレ。
言ってる事と思ってる事が逆じゃよ?
可愛いのう可愛いのう。でも、そのツンデレ癖は直さんと駄目かの?
ルビーもそう思うじゃろ?」

その言葉に白真珠の左隣に居る、メイド服姿の犬娘『ルビー』は呆れた顔で

「黒真珠が可愛い?
怖いの間違いでしょ?
白真珠は少しは自分の妹の危険性について考えるべきよ」

(私の世間の評価が低すぎて辛いよう……私、何か悪い事したっけ?)
「黒真珠様は『死ね、糞メイドっ!ナポ様の●●●でも舐めてろ!』と言っております」
(ホワイトー!?ルビーちゃんに喧嘩売っちゃだめぇー!?)

「へぇ?アンタ死にたいの?
いいわ、殺してあげる」

ルビーがスカートの足元から光線銃を2丁取り出し、黒真珠に銃口を向ける。
ホワイトがサッと間に入り、両者の間に戦慄するほどに冷たい時間が流れた。

(きゃぁぁぁぁ!殺人はだめぇぇぇぇぇ!!
ルビーちゃん!だめぇぇぇぇ!!私、ルビーちゃんは優雅なメイドさんだなぁーって尊敬しているのにっー!)
「黒真珠様は『ナポ様がもうすぐ来るのに、この場を血で汚す気か?糞犬』と言っております」
(ホワイト!?どう通訳したらそんな内容になるの?!
ゆぇーん!もうやだぁー!)

殺し合いに発展しそうな――場の雰囲気がガラリッ変わった。
空気が歪む、軋む。別の場所から『偉大なお方』が狐娘と一緒に転移してくる。
12人全員が椅子から立ち上がり、転移してきた紅スーツの男――ナポに敬礼を捧げた。

「「「ナポ様万歳!」」」「黒真珠様は『ナポ様、おはようございます』と言っております」
「うむ、ご苦労」

そう言ってナポはゆっくりと全員の顔を見渡し――黒真珠の顔をジロリッ!と睨んだ。

(えー!?ホワイトの通訳可笑しすぎだよ!?
この場でおはようございますとか、言う訳ないでしょ!?
今、昼だよ!?)

心の中で焦る黒真珠。幸い、ナポは他に伝える要件があり、そっちが優先された。
ナポは黒真珠から眼を離して、12人の配下の顔をゆっくりと見回す。

「諸君。私の愛する6元帥諸君。
君達をここに集めたのは――給料の支払いについてだ。
近日中に、必要な金属資源とオイルの量を、書類にして提出するように。
核ミサイルを撃ってきた馬鹿から、金属資源を提出させるから安心してくれたまえ」
「「「「分かりましたナポ様!」」」「黒真珠様は『さすがナポ様、太っ腹』と言っております」
(ホワイトぉー!?あなた、自分が言いたい事を言ってるだけでしょ!?)

ナポは黒真珠をギロリッ!と再び睨みつけ言葉を続ける。

(私、嫌われちゃったよう。好きな人に嫌われるの辛いよう)
「そして――新しく建設する国の名は『モッフフー王国』になる事が決定した。
このモフモフ大陸と、周辺の無人の浮遊大陸群が勢力圏になる。
私は初代国王、ミーニャンの立場は王妃だ」

6元帥の内、3元帥が激しく動揺した。
犬娘のルビー、エルフ娘の白真珠、ダークエルフ娘の黒真珠だ。
ナポに深い敬愛を捧げる彼女達は、失恋したのと同じ感覚に陥っている。

(僕、恋愛競争にあっさり負けた!?いや、競争にすらなってない?!)
(二人、仲が良かったからのう。わっちの恋終わりかの?悲しいかの?)
(そんなー)「黒真珠様は『結婚おめでとうございますリア充』と言っております」

混乱する3名の女の子を他所に、ミーニャンが嬉しそうな顔で「もっふふー」と呟いた後に

「皆さん、これからもどうか、夫を支えて下さいね。
私も王妃としてバリバリ頑張りますよ!
wikiペディアくらいの情報なら、頭の中に入ってま――」
「ミーニャンは王妃だが、最終的に私は立憲君主制の国――王が権力を持たない国を作るつもりだ。
つまり、彼女は私と結婚して子供を産む事になるが、その子供には権力は発生しない。
権力は人を必ず腐らせる。それゆえに私は最後に権力を捨てるつもりでいる。
立憲君主制については、後で添付するファイルを見るように」
「「「分かりましたナポ様!」」」「黒真珠様は『ナポ様が腐るはずがない、物理的に考えて』と言っておられます」
「もっふぅ……」

なぜか、ミーニャンの見事な狐耳が垂れ下がった。
ロマンチックの欠片もないナポは、元気をなくしたミーニャンを放置。話を続けた。

「そして次の話だが――この中で一番頭が良いのは誰だ?」

その言葉に、12人全員がナポをズビシッ!と指差した。

「「「「ナポ様です」」」」
(周りに意見に同調しとこう)「黒真珠様は『ナポ様の頭は世界一イィィィィ!!』と言っております」

皆の言葉を聞いたナポは、顔を横に二回振って

「……私以外で、頭が良い奴は誰だ?」

と言い直したら――全員が白真珠を指差した。
彼女のエルフ耳がピョコピョコ動いて興奮している。

「わっち、そんなに評価されとるのかの?」
「ふむ、白真珠は頭脳労働が得意なのか?」
「得意な方だと思っているでありんす」
「よろしい、ならば――」

ナポの手が、白真珠の可憐な手を取って

「白真珠を首相に命じる。
今日からお前はモッフフー王国の初代首相だ」
「ナポ様、首相って何かの?」 白真珠は首を可愛く傾げた。
「私の次に偉い。そういう地位だ。
その智謀でこの国の獣人達を導くのだ、白真珠」

白真珠の顔が、花が咲くようにパァーと明るくなった。

「わっち、ナンバー2という事かの?ナポ様」
「うむ、そうなる。
ただし、その権力は腐らないように交代制だ。
何年毎かに一回行われる、獣人達の投票で次の首相が決まる。
無論、人気があれば、白真珠が首相を続ける事も可能だ」
「なるほどのう。
獣人達に気に入られるような政策をすればええんじゃな?」
「そうだ。出来れば獣人達のために産業などを作って欲しい」
「わっち、たくさん頑張るんじゃけど――特別な褒美を願ってもええかの?
さすがに国一つ運営するのは初めての経験で心細くての。
褒美を貰えんと辛いのう」

顔を赤らめて上目遣いの白真珠。この時、ミーニャンとルビーは嫌な予感を感じ取った。
あ、こいつ、今止めないとやばいな的な意味で。

「白真珠、私にできる範囲なら叶えよう」
「じゃ、わっち遠慮なく言うんじゃよ?
わっち、わっち、わっち――ナポ様の愛が欲しいでありんす。
わっちをナポ様の第二王妃にしてくりゃんせ?」

(きゃー!白お姉さま!大胆な告白!)「黒真珠様は『あざとい合法ロリだな、さすが謀略に優れている糞姉だ』と言っております」

この瞬間、ミーニャンとルビーの心が一つになった。
恋愛競争最大の強敵と化した白真珠を睨みつける。

((この女!油断ならない!))

機械歩兵達の方は、首を360度回転して驚いていた。
レッド、ブルー、ピンク達はお互いに通信し合う。

(大変だっ!修羅場になりそうな雰囲気だぞ!ブルー!)
(これがリアルギャルゲー展開か。ゲームで見たけど現実で発生するなんて……さすが、ナポ様としか言いようがないね。超モテモテだよ)
(あらあら、生身の女性達はいいわねぇ、青春だわ。アタシもエルフ娘になりたいわ……)

こうしている間にも30秒ほどの時が流れた。白真珠の勇気溢れる愛の告白……それに対するナポの返答は

「私の子供を産んでも、権力は手に入らないが……それに納得できるのか?白真珠」
「わっち、ナポ様の格好良さに惚れての。
権力なんか二の次で良いと思うでありんす。
愛する男のお嫁さんになれるのは、わっちの長年の夢なんじゃよ」
「……よし分かった。
今日の夜、私の寝室に来い、白真珠。
立憲君主制と首相の仕事と、ついでに王妃の仕事を――その体に刻み込んでやろう。
特別講習だ。ベットの上でな」
「わっち、今、楽しくて楽しくて仕方ないのう」

白真珠は、太陽のような満面の笑みを浮かべた。
心の底から嬉しそうだ。

「もっふぅ……」

しかし、ミーニャンの狐耳が垂れ下がったままだ。元気を失っている。
結婚の報告をしたら、夫がハーレムオリ主にレベルアップした。それは女性から見たらとても残念な事だ。
だから、ナポは彼女の狐耳に口を近づけて、小さな声で

「……安心してくれ、私が一番愛しているのはミーニャンだ」
「もっふぅ?」
「王朝を維持するためには、ハーレムは仕方のない事なのだ、許せ」
「もっふぅ……マスター、単純にハーレムが男の夢だからなのでは?」
「うむ、ハーレムは男の夢だ。憧れだ。
しかも、私と結婚してもメリットがない事を説明したのに……白真珠は愛の告白をしてくれた。
これを無碍に断る事はできない」
「もっふぅ……」
「逆に考えるんだ、ミーニャン。
王妃が複数いれば、仕事を押し付けられて、私と一緒にゆっくりできる時間が増えると考えるんだ」
「もっふ?」
「超忙しい公務を皆で分散できる。とっても素敵だろう?」

最終的に、もっふふーと呟いて、ミーニャンはナポのハーレムを仕方なく認めた。
王朝を維持するためにハーレム。
悲しいけど、これが現実なのよね。



★モッフモッフな夜★

その夜、ナポは寝室のベットで、白真珠と向き合っていた。
紫色の薄いキャミソールから透けて見える彼女の肌は……真っ白で雪のように滑らか、胸は小さかったが愛らしい。
絶世の美少女の体を自由に出来る。ピンク色のエッチィパンツ脱がしてやりたい放題出来るのだ。
ああ、なんて光栄な事なのだろうか。もうナポの股間のゴールデンバットが元気すぎた。
王様の義務が『子作り』素晴らしい。
暗黒大陸《アフリカ》に住むス●●●●●のハーレム王よりも幸せだなと、ナポは思った。
だが、問題は

「もっふふー♫もっふふー♫」

部屋の床に座って、正々堂々と布に絵を書いているミーニャン。
彼女が楽しそうに絵を描いているから、エッチィ雰囲気にはどうしてもなれなかった。
ナポが静かに問いかける。

「ミーニャン。何をやっているんだ?」
「国旗作りですよ?
マスターも気に入ると思います」
「ほぅ?これは……凄いな」

布には、ビッシリと……デフォルメされた獣人達が描かれていた。
モフモフ・オンラインの創始者『モッフル卿』を中心に、死んだプレイヤー達の姿が並んでいる。
ナポは白真珠との子作りも忘れて、布に魅入られる。

「素晴らしい!ミーニャン、この旗は素晴らしい!
さすがとしか言いようがない!」
「もっふふー♫
1000人分のイラストを描く予定なんですよ。
きっと完成したら、世界一目立つ国旗になりますよね」
「贅沢を言うなら、モフモフ神社も国旗の中にあると嬉しいな」
「わぁー、良いアイデアですね!マスター!」

そんな楽しそうな二人を他所に

「わっちの初夜が台無しでありんす」

白真珠の細長いエルフ耳が――下に垂れた。
ナポが指パッチン分身術を作り出す、三日後のその日まで。
熱い熱い初夜はお預けになった。




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