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エルフ娘の世にも不思議な旅

8国目 お金の国 前篇


ラッキーは、今日も人間の国に不法入国して、街中を散歩していました。
その人間の国は、他国と比べるとそれなりに豊かで、街中には無数の高層ビルが立ち並び、広い道路には休む事もなく鉄の車が走り、人目のつかない場所に多数の住所不定のホームレスがいる普通の国です。
光あるところ闇ありという奴ですね。
でも、可笑しい事に、皆が希望を持って、目をきらきらと輝かせていて不気味なのです。
富める者も、貧する者も、明日への希望を平等に持っていました。

「?
この国、どうして皆が元気なんだろう?
貧乏な人も希望を持てる良い国なのかな?」

ラッキーは疑問に思ったので、近くにいた70才くらいのヨボヨボで、ボロボロの茶色のジャケットを何カ月も着ていそうなホームレスのお爺さんに話しかけてみる事にしました。
そのお爺さんは、道に落ちている空き缶を拾う資源回収という仕事をやっています。
常識的に考えると、恐ろしいほどに低賃金で割に合わない作業なのですが、お爺さんは笑顔です。

「ねぇねぇ、どうしてそんなに笑顔なの?
最近何かいい事があったの?」

「ん?
なんじゃ?
可愛らしい娘子じゃな。
ワシが幸せじゃとあかんのか?」

聞き方が悪かったのでお爺さんが少し怒っています。
ラッキーは知的好奇心を満たすために情け容赦なく

「普通は、あなたみたいな底辺階層の人間って、食うにも困るはずだから自暴自棄になったり、将来に絶望しちゃうはずだよね?
なんで笑顔なの?
ここってそんなに良い国なの?
気になるから教えてほしいの」

「口がなっとらん! 」

お爺さんは怒って場から立ち去ってしまいました。
ラッキーは話をしてもらえなくてションボリ。
でも、知的好奇心を満たしたいからめげません。
次は、ベンチに座っている貧乏そうな痩せている青年に話しかけます。
青年は、何日も風呂に入っておらず、身なりがボロボロのシャツとズボンでしたが、眼は希望でギラギラ輝いていました。
こんな貧乏人でも希望を持てるなんて、普通の国ではありえません。

「ねぇねぇ、最近良い事あったの?
良かったら教えてくれないかな?」

「ん?
可愛い娘だな。
今の俺は気分が良いから答えてあげよう!
この国はな!
新しく発行される紙幣を大量に刷って、国民全員に毎月配布する政策が実現する事が決まったんだ!
……まぁ、お譲さんも知ってるよな。
毎日ニュースになってるし」

「え?
お金を刷って配る……?
富を平等に配分する共産主義の一種なのかな?」

ラッキーには、意味が分かりませんでした。
青年は、若くて可愛い女の子と会話したのが久しぶりだったので、親切に教えてくれます。

「分かってないような顔をしているな。小さいお嬢さん。
小さいから理解できないのも無理はない」

「うん、分かんない」

「いいか?
お金を大量に刷ればな。
それだけ、皆がお金を使うんだ。
そうなると皆が儲けて、お金を更に使う循環が産み出されて……経済が活性化されて豊かになるんだ。
更に、そのお金が他国にも大規模に流通するようになれば、他国を支配したも同然。
他国は、我が国の通貨によって市場を牛耳られ、戦争に負けたも同然の状態になるんだ。
我が国が、相手国に紙幣の流通量を減らすぞ!と脅すだけで、市場が窒息し、我が国の言いになりならざる負えない。
ここまではいいか?」

「うん、分かった」

ラッキーには訳がわかりませんでしたが、わかった振りをしました。
通貨で他国の市場を支配しようとする所は理解できますが、その流通のさせ方が謎です。
ラッキーの頭の上にいる妖精さんは、男のことをキチガイを見るような目で見ています。

「今言ったような事を繰り返して、全世界に我が国の通貨を流通させれば・・・俺達は働かなくて良いんだ。
他国の富を我が国の通貨で買い上げて、一生、紙幣を量産するだけで贅沢に暮らしていける。
俺達の国は、そんな素敵な日々を送るために、来月から大量に紙幣を印刷して、俺達に配ってくれるんだ」

「うーん、それって酷い事にならないの?
紙幣の印刷のしすぎて、お金の価値がなくなって物価が極端に上がったりとか。
きっとそんな展開になると思うよ」

「は?何を言ってるんだ?
お金の価値が上がったり、下がったりする訳ないだろ?」

「え?そうなの?」

ラッキーには訳が分かりません。
金貨や銀貨なら話はともかく、低コストで過剰に印刷機で大量生産できる紙幣の場合、青年の言った通りの事を実行したら、紙幣の信用度が下がり、紙幣の価値が紙くずになるはずなのです。
青年は自信満々な顔で

「食料品の値段は不作・豊作の影響で極端に上がったり下がったりするかもしれないが、お金の価値は大して変わらないんだ。
この国は長年、金貨・銀貨・銅貨の三つの金属の貨幣で商売をやってきたから、ちゃんとその点はわかっている。
きっと、紙幣も同じようなもんだろう?
だから幾ら、紙幣を刷っても価値はなくならず、大量生産された紙幣による無限の富で国が豊かになるはずなんだ」

「あの、この国って、紙のお金って初めて体験するの?」

「ああ、そうだよ。
そんな一般常識も小さいお嬢さんは知らなかったのか?」

ラッキーはここで合点がいきました。
この国は、金属の貨幣を中心とした貨幣経済でやってきた国で、紙のお金を体験するのが初めてだったのです。
貨幣の場合、貨幣の中の金や銀を減らさない限り、価値は暴落しませんが、紙幣の場合は違います。
貨幣以上に紙幣は、国の信用度=紙幣の価値になっているのです。
紙幣は信用がなければ紙クズなのです。
この国の人達はそれを分からずに、馬鹿な事をやろうとしていました。



ラッキーは面白い事になりそうだったので、この国にしばらく不法滞在しようと思っています。
そして男にこう言いました。

「うん、私はこの国の事は何にも知らないよ。
でも、この国の未来は分かるよ。クスクスクス」







後篇に続く。





 

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●ある国が旅の商人から、【お金は凄い。他国の市場をお金を流通させて支配すれあb、働かなくても、大量の富が手に入る。
お金の流通を制限するだけで、他国の市場は窒息し、それを恐れた他国は支配を受け入れてしまうから】

●じゃ、大量に紙幣を刷りまくろう。
今の発行量の@万倍目指して、お金を増やしまくろう

●スーパーインフレ。物々交換の時代になり、経済壊滅。
国民のほとんどが他国へと逃げた。
おしまい。

●この国の政治家A 


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