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ゆっくり戻るよ!

一隻の帆船が海を航海していた。
世界中の港から港へと移動し、人と荷物を卸す事を生業とする貨物船である。
その船の一番高い所に設けられた見張り台で、一匹の可愛らしい黒猫が周りを見渡して、暇そうにしていた。
猫が普通に仕事をしているのは気にしてはいけない。
この世界は蟲すら、労働力として運用する魔境なのだ。

「見張り台の仕事は暇にゃっー。
早く港について欲しいのにゃっー。」

黒猫は、小さな手で頭を掻きながら眠そうにしている。
その姿を猫派の人間が見れば、可愛らしいと思う仕草だった。
そんな黒猫の願いは・・・・斜め上方向に叶おうとしている。
緑色のエーテルの粒子を運ぶ風が吹きはじめたのだ。生物は浴びるだけで変容し、最終的に死へとおいやる最悪の粒子。
何時もなら3の倍数の月の初めに吹く風なのに、季節外れのエーテルの風。
完全にノースティリスの周辺を航行中の船は、壊滅フラグっ!
それが水平線上を満たしていた。

「にゃああああああああああああああああああああ!!!!
エーテルの風にゃああああああああああああああっ!!!」

黒猫ちゃんは逃げようとしたが、逃げられるもんではない。
そのまま船は、エーテルたっぷりの大気を浴びまくり、船員の身体が変容する。
まずは、船の生命線である操舵士のオッサンの手が変容した。舵を取れない感じに、手から羽が生え、操舵不能っ!
次に船長の眼が変容して、鱗が生え、失明っ!
船員はエーテルの風から逃れるように船の中に入り、操舵をする人間は甲板には誰もいなくなったのだ!

「早く、誰か操縦するのにゃっー!
このままじゃ、エーテル抗体ポーションがたくさん必要なのにゃっー!」

黒猫の叫び虚しく、船は操船不能になって沈没した!
これがイルヴァの日常クオリティっ!


 

 

第1話 酷い世界なのにゃ

 

 

 

黒猫が次に眼を覚ますと、周りが真っ白な不思議な空間だった。
そこには、黒猫以外には金髪が美しい美少女しか居らず、その女性はイルヴァの地で信仰されている幸運の女神エヘカトル。
黒猫の飼い主さんだ。
幸運の女神は、黒猫が目を覚ましたことを確認すると、見惚れるような笑顔で

「命を救ってあげたから、お願いを聞いて欲しいだよっ!だよっ!
お願いを聞いてくれないと、うみゃみゃっ!だよ!」

これがイルヴァの神様クオリティ。
とっても住民に身近な存在で、時には都市丸ごと壊滅させてしまう事もある。
ちなみにうみゃみゃ!が、その都市を破壊できちゃう最悪の魔法なのは、信者の間の公然の秘密なのだ。

「ご主人様のおかげで助かったのにゃっ!
お願いを聞いてあげてもいいのにゃっ!」

黒猫ちゃんは、フレンドリーすぎる女神様相手に調子に乗っている。
でも、傍目から見たら可愛らしい振る舞いだった。

「お願い事は簡単だよっ!だよっ!
イルヴァの地を、色んな災厄から救済して欲しいんだよっ!だよっ!」

「・・・・・・にゃっ?」

「イルヴァの地を蝕んでるメシェーラっていう細菌を退治するお手伝いをしたり、エーテルの発生を食い止めたり
世界中の困った悩みを解決するだけの簡単な仕事だよっ!だよっ!」

「それの何処が簡単なお仕事なのにゃっー!
断るのにゃっー!」

世界を救う英雄になってくださいクラスのお願いだった。
幸運の女神からしたら、お気軽な内容だったが、黒猫には辛すぎる。
幸運の女神は、そんな黒猫の反応も予測していたのか、絶世の美少女笑顔で

「友達3人くらいに頼んだから、手伝ってくれるんだよ!だよっ!
だから、頑張ってね!頑張ってね!」

黒猫の真下に穴が出現した。
そのまま重力に沿って、穴に吸い込まれるように黒猫が落ちていき、最後に出した言葉が

「お気軽に考えすぎなのにゃっー!
3人で出来る訳がないのにゃっー!」

 

 

 

 

 

 

 

黒猫が次に眼を覚ますと、明るい洞窟の中だった。
黒猫の目の前には、緑色の髪の二人の人間の男女がいる。
世界中から嫌われている人型種族エレアだった。
嫌われている理由は、異形の森からエーテルが大量発生し、世界中に蔓延しているのが原因って奴である。
二人とも、黒猫をバラバラに解体するために、エーテル製のナイフを持っていた。
今にもグサリと刺さりそうである。

「にゃっー!いきなり命のピンチにゃっー!」

イルヴァでは、寿命が来るまでは気合で復活できる世界観なので、命が紙のように軽い。
ただ、殺されるとペナルティが発生するし、痛いので嫌なのだ。
黒猫は涙を流しながら、命乞いするがエレアの二人は問答無用である。
ナイフは振り下ろされ・・・・遠くからやってきた超音速の弾丸がナイフを粉々に砕いた!
ナイフの破片が黒猫とエレアの二人に飛び散って刺さりまくり、全身から血が吹き出るっ!

「痛いのにゃぁぁぁぁっ!!!!!
血が、血が出すぎにゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「キャッー!」「油断してしまったな・・・」

1匹と2人は、そのまま出血しすぎて死亡した。
イルヴァでは、出血死は恐ろしいほどに効率が良い戦術なのである。
場に残ったのは、エーテル製の弓とナイフを始めとした装備品と肉だけだった。

 

 

 

 

黒猫が次に眼を覚ました時、目の前に巨大な人型ロボットがいた。
恐ろしいほどに長くて巨大な銃を両手に持ち、威圧感を与えてくる。

「にゃっー!次はなんなのにゃっー!」

黒猫の驚愕に、人型ロボットから音が流れてくる。
とても生物が出すとは思えない声だった。

「ワタシハ、ゼイレン究極破壊兵器『ウティマ』。
友ノ幸運ノ女神ノの願イデ、手伝イニキタ。」

「ゼイレン究極破壊兵器にゃっ・・・?」

黒猫には、その名前に聞き覚えがあった。
機械の神様として祭り上げられ、ノースティリスに城を構える凶悪なロボットの名前。
城に近づくだけで、超音速で弾丸が飛んで来て、ノースティリスの三大迷惑になってる1人である。
こいつのせいで道や橋はあれど、誰も通らないから町すら出来ないのだ。

「わっちらも、友の願いで手伝いにきたぞっ!フリージアと呼ぶがよいぞっ!」
「ふはははははっ!我らの力を借りれる事を誇るがいいっ!我が名はアズラシズルっ!偉大な死霊の神だぁっー!」

更に、その巨大人型兵器の後ろには、別の人物が二人いる。
猫耳で短パンの可愛らしい軽装の美少女。猫の神『フリージア』
狡猾な戦いをする真っ赤で禍々しい不死者、死霊の神『アズラシズル』っ!
どっちもノースティリスの三大迷惑の1人だった。
主に西に広がる森林地帯や、王都の北に広がる土地を一般人が怖がって、モンスターしか住んでない原因になっている。
そんな奴らが目の前にいると理解した黒猫は、空気を大きく吸って、想いを吐き出した。

「手伝う予定の味方を殺しておいて謝罪もしない奴らは嫌なのにゃっー!
明らかに人選を間違えているのにゃっー!」

誤射による死は、イルヴァでの大きな死因の一つになっている。
でも、気にしちゃいけない。
命は、今日食べる飯よりも安いのがElonaクオリティ(序盤限定)


3人の裏ボスと、1匹の世界救済の旅が始まった!
ノ ー ス テ ィ リ ス の 地 が 危 な い っ !


 

あとがき

(´・ω・`)この設定なら、簡単に終わらせられるはず。

 

 

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