まあ、結局オレはこの日から、3500年前のエジプトで奴隷として暮らすことになるんだがな。
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　古代エジプトというと、専制君主であるファラオが奴隷にムチを打って、重労働させる最悪な奴隷の国というイメージがあるだろ。
でも、あれ嘘なんだぜ。
今のエジプトの法では奴隷と自由民の差はほとんど無くて、要は土地や家を持ってるか持ってないかの差ぐらいで、奴隷でも土地や家を持つ自由民と結婚することもできたし、その場合奴隷の身分から解放されたし、正式に結婚しなくても自由民との間に出来た子供は、認知されれば奴隷ではなくて自由民として扱われたんだぜ。

　奴隷として連れてこられたのは今のシリアやパレスティナ地域からが多いんだが、その中の女性たちの大半は織物技術者だったり散髪・髪結い・ビールやワインなどの酒造・サンダルづくり・家庭教師といった専門職だったりするんだ。
ギリシアやローマのように戦争が多いわけでもないから兵士として戦場にに駆り出されるわけでもないし、単純な農作業など単純労働に従事する者のほうがむしろ少ないくらいだ。
まあ、そういった役目は国内の人口で賄えるってことだな。

　あと基本的にエジプトは母系社会なので、土地や家の管理は女性のするもの。
なので、小麦の種を撒いたり収穫したりする作業は、女性やその家族がやったんだ。
エジプト人にとって農作業は辛いものではなく、楽しみでもあったんだな。
つまりエジプトは、自国の自立した労働力をちゃんと持っていたので、別に奴隷なしでもやっていけた。

　エジプトが栄えてくるに連れて、こうした特殊技能や知識を持つ異国人奴隷の価値は高くなり、そうなると奴隷商人も存在したが、契約を結んで売買する人身売買だから奴隷と呼ばれるだけで、実際は暮らしぶりの楽なエジプトに人を斡旋するような派遣会社のような商売だった。
下手な現代の派遣会社なんかよりずっとまっとうな商売だぜ。

　言葉が通じないということは何故かなかったが、文字が読めないのは困った。
何しろ古代エジプトの文字は古代エジプトでは石に刻むためのヒエログリフ（聖刻文字）と筆記用のヒエラティック（神官文字）とヒエラティックを崩した簡略文字であるデモティックの三種類もある。
まあ、時間をかけて仕事の合間に覚えたりしたんで今じゃなんとか読めるし、別に読めなくても生活はできるとは思うけどな。

　この時代のエジプトはまだ貨幣経済が発生していないから、給料は穀物6袋、ヤギ6頭、銀1シャト(15グラム)とかだったりする、小麦本位制の時代なんだ。
で、王家や神官、書記官みたいな上級民、土地や家を持ってる中級民、それ以外は皆小作農家みたいなもんだな。
　税を収めなかったり、人殺しをしたり、物を盗んだりすれば当然罰せられるが、その中に土地と家を奪われて奴隷にされるという罰もあるけど一般民の貧富の差はあんまりない。
なにせ基本通貨は小麦だ、いつまでもためて置けるもんじゃない。
でも、ナイル川の恵みがあるおかげで凶作と言うのは殆ど無い。
もちろん数年に一度は氾濫時の水位が低く、栄養の豊富な土が不十分で多少不作を招くこともあるが。
エジプトは気候も温暖で過ごしやすく、入浴や脱毛の習慣もあって清潔だし医学も案外発達してる。
まあ流石に甘味や香辛料は殆どないがまあ、その分新鮮な肉や野菜を食べることができる。
ちなみに今のエジプトでは、1週間は10日、1か月は3週間、つまり30日。
それが12か月で360日で、残りの5日間はどうしたかというと、年末にみんなでドンチャン騒ぎをして過ごすんだ。

　まあ、なれるのに一年ぐらいかかったがそんな俺の一日はこんな感じだ。
ちなみ今日はいわゆる王家の谷のハトシェプスト女王葬祭殿の建築の人夫として建築作業に従事することになるんだが。

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