前にゆっくり戻るよ!  ゆっくり次に進むよ!   
ゆっくり戻るよ!

かつて対艦巨砲主義と呼ばれるものがあった。艦艇同士が大砲をドカドカと撃ちあい、その圧倒的な攻撃力によって相手を沈めるという爽快な闘い方である。

しかし、第二次世界大戦の真珠湾奇襲攻撃で行われた航空機の集中運用のせいで、この対艦巨砲主義は呆気なく砕け散ってしまった。

大型艦艇は素晴らしい。厚い装甲板が素晴らしい。圧倒的な攻撃力で蹂躙する所が最高だ。

そんな素晴らしい時代が終わってしまったのである。

だが、そんな時代を仮想空間だけでも叶えようとする漢達がいたっ!

巡洋艦と戦艦ばっかりが優遇され、駆逐艦と戦闘機が冷遇される宇宙戦争オンラインゲームが実現されたのだっ!

正面決戦での闘いこそが重要になるようにバランスが調整され、駆逐艦と戦闘機を使うものがほとんどいない。

ほぼ全てに等しいプレーヤーが、艦隊同士でのドカドカ撃ちあう艦隊決戦の魅力を味わい、大金をだして部品を購入してオリジナルのスーパー戦艦を作る夢のゲームだった。

この物語は、冷遇されている駆逐艦を駆り、強大な敵である巡洋艦と戦艦を落とそうとする漢の物語なのである!










第1話   主人公が巡洋艦から駆逐艦に鞍替えした理由

-----------------------------

「駆逐艦?搭載できる武器・弾薬が少ないわ、装甲が薄いわ、ジェネレーターの出力が低いわと最低の艦艇だな!

戦艦こそが最強で爽快だぜっ!君も巡洋艦なんて使わずに戦艦に乗ろうぜっ!速度は遅いけどな!」

by 一般プレーヤー

-----------------------------














星達の輝きと漆黒の闇に満たされた壮大な宇宙空間。そこを5隻の艦艇がゆっくりと移動している。

どの艦艇も100mの長さがある純白の艦艇であり、ビーム・ミサイル・機雷・・・全ての武装のバランスが整っている初心向けの初期艦艇「万能雑魚巡洋艦Z」だ。

ゲームを始めると勝手にプレゼントされ、ここから現実のお金を使ったり、戦闘に勝利してお金を貯めて、それぞれの方向性のあるオリジナル艦艇を作るロマンが広がっているゲームである。

プレーヤー達は、この万能雑魚巡洋艦Zでゲームの基礎を学ぶのだが・・・この5隻の艦艇の内、1隻の巡洋艦の行動が可笑しかった。

「ヒャッハー!操作方法がわかんねぇっ!どうやって速度をアップするんだ?これか?これかぁっ!」

【ちょっと待ってね!ちょっと待ってね!そっちの進路には味方艦がいるよ!このまま衝突しちゃうでしょおおおおっ!?!?!】

巡洋艦は、戦艦よりも速いほうなのだが、それでも遅いという事にイライラした主人公さんが、色々と操作を試しているのである。

そして、そのいい加減な操作で、艦の進路は隣の艦へと衝突するコースになってしまい、それをオペレーターAIさんが警告しているのだ。

だが、そんなAIの努力も実る事もなく、主人公の巡洋艦はグングンと進んでいき、味方の巡洋艦の純白の横腹に衝突してしまう。

【あああああああああああっ!!!突っ込んじゃ駄目でしょおおおっ!?!!!!】

巡洋艦の先端が衝突したことでドカンッ!ドカンッ!ドカンッ!と誘爆が始まり、味方の巡洋艦の装甲板が連鎖爆発を次々と引き起こして武装が消し飛んでいく。

純白だった外観が真っ黒に染まり、最後の誘爆がジェネレーター付近で起こり、そのまま引火して大爆発を起こしてしまった!

【し、至近距離で味方艦が大爆発をおこしたよおおおおっ!!!!こちらの装甲板も誘爆しているよおおおおっ!!!!!】

「な、なんて素晴らしい光景なんだぁっ!これが宇宙戦争って奴なのかぁっ!」

【喜ぶなああああっ!!!!!とにかくあんたは反省しろおおおおっ!!!!!】

味方艦の大爆発に主人公の艦艇も巻き込まれ、宇宙に綺麗な光が咲く。

5隻中2隻を事故で失う形になってしまった艦隊は、その後に敵艦5隻と遭遇し、数の暴力でフルボッコにされて、一隻も沈める事もできずに全滅するのだった。

そのボコられ具合は見事であり、一隻一隻に集中砲火が浴びせられ、各個撃破されるという理想的な戦場模様である。

主人公は初心者という事もあって、プレーヤー達は笑って許してくれているが、何度も何度も対戦をやる内に彼らは怒ってしまった。

【どぼじで味方艦を掠めるように移動するのおおおおっ!?!?!!ミサイル発射口が完全破壊されちゃったでしょおおおっ!?!?!!!】

「艦と艦が衝突寸前ですれ違うのがロマンなんだぜぇっー!」

【それは敵艦とやれええええええっ!!!!!味方艦でやるなあああああああっ!!!!!】

主人公は初心者なので大した腕はない上に、何度も何度も味方側に不利になる事を行ったので彼らが激怒してしまったのである。

しかし、このゲームの仕様は固定されたチーム戦以外は、ランダムにプレーヤーを選択して艦隊が編成される仕様なので怒る事しかできない。

5隻VS5隻の小規模艦隊戦となると、これは致命的すぎて困った事態であり、この対戦そのものがプレーヤーがほとんど離脱する事によって解散の流れになったのだった。










【プレーヤーさん。プレーヤーさん。今なら半額で30万円の巨大戦艦イスカンダルを購入できるよ!お得だね!これならどんなヘボでも無双できるよ!】

結果的に一度も戦闘に勝利できなかった主人公に、オペレーターAIさんが優しく商売を始めてくる。

ちなみにオペレーターAIさんに実体はないので音声だけだ。あるのは部品や艦艇を売り買いする画面だけである。

【そこのOKボタンを押すだけだよ!楽勝だね!】

しかし、購入欲を刺激しようとするAIさんの予想とは裏腹に、主人公がとった行動は奇想天外な物だった。

「巡洋艦よりも遅い戦艦なんて誰が使うかよぉー!ヒャッハハハ!時代は速さと、それなりの火力のある駆逐艦だぜぇっ!

今持っている巡洋艦を売却して、劣化万能駆逐艦レッカーを購入だぁっ!」

【だ、駄目でしょおおおおっ!?!?!!今持っている巡洋艦よりも弱いよおおおおおっ!!!!!!

巡洋艦より良い所なんて速度しかない駄目艦艇さんなんだよおおおおっ!!!?!!

劣化だからレッカーっていうネーミングセンスでどれだけ酷い艦艇か予測できるでしょおおおおおおっ!!?!!?!】 

こうして、主人公の険しい駆逐艦への道が始まったのだった。

ジェネレーターさえ付いていない戦闘機よりもマシというレベルの冷遇されっぷりを、主人公は後に実感する事になるのである。







●万能雑魚巡洋艦Z    全長100m

全てのプレーヤーが愛する初期艦艇。武装のバランスが良いので、これを参考にオリジナル戦艦を作る事が多いほどに素晴らしい。

他の艦艇を購入せずに、これを使い続ける猛者達がいるほどに素晴らしい。



●劣化万能駆逐艦レッカー  全長50m

巡洋艦より優れている部分は速度だけという低性能艦艇。

なんと戦闘中に撃てるビームが2発、ミサイル4発、機雷1発という有様である。

バリアーも前面に張る事が可能だが、低出力なので容易く破られて大損害を受けてしまう。







あとがき

(´・ω・`)全4話構成の予定。


ゆっくり戻るよ!
前にゆっくり戻るよ!  ゆっくり次に進むよ!   
ブログパーツ