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Lv14「不死王と発明エルフB〜お野菜さん帝国〜」
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危険なキャベツを駆除する大騒動で、精神的に疲れたワルキュラは皇后とイチャイチャして癒された。
しかし、皇后が寝静まると――元凶であるアトリが寝室へと入ってくる。
とっても、素敵な笑顔だ。周りに迷惑かけても全く気にしていない。
「農業省と一緒に、今度は野菜工場を作ったのですよ〜」
「たった……一日で作ったのか?」
「一日じゃないのですよ?
こっちに来て欲しいのですよ〜」
不思議と違和感を感じた。
なぜか、目の前にいるアトリが可笑しい。ワルキュラはそんな気持ちにさせられる。
宮殿の中の通路――全く見覚えがない怪しげな道を通る。
周りに変な模様がたくさんあって、空間がグニャグニャと曲がっている。
(新しく発明した魔法なのだろうか……?
宮殿にこんな通路があったら……地震で崩れるような……?)
耐震性が気になる、そんな通路だなぁと、ワルキュラは思った。
アトリの背中をホイホイと追いかけて、通路を突き進む。
「こっちなのです〜」
気づけば、目的地へと着いていた。
宮殿の敷地内に、なぜか巨大な工場地帯がある。
明らかに宮殿よりサイズが大きくて可笑しかったが……アトリが新しい魔法を開発したのだろうと、納得する事にした。
一番納得できないのは――工場の入口にいる守衛が、手足がついた真っ赤なニンジンさん。宮殿の警備兵は、動く骸骨を占めているはずなのに、これは可笑しかった。
「むぅ……?」
ニンジンには、デフォルメされたイラストみたいな目玉がついている。
それが余計に不気味さを感じさせた。まるでこの世の者とは思えない。
二次元のキャラクターが、三次元に迷い込んだような怖さがある。
「ニンジン嫌いな娘はいねぇーかぁー。
ニンジンは栄養がたっぷりなんだぞー」
しかも、ニンジンが喋った。渋い声だ。
アトリは嬉しそうに、この喋るニンジンを指し示して――
「なんとっ!今回作った野菜工場はっ!
食材が働いて、食材を調理する完全無人工場なのです!」
失業者が増える発明すぎて、ワルキュラは驚愕した。
食品業界は人件費がたっぷりかかる傾向にあるから、機械を導入して効率化しないと駄目だが――さすがに完全無人化は、雇用そのものを奪って、無職を量産するから駄目すぎる。
雇用が喪失すれば、消費者も自動的に減って、市場が小さくなってしまうから、こんなものを正式採用する訳には行かなかった。
こんな事を考えて、ワルキュラが現実逃避している間にも、アトリは工場の奥へと入っていく。
「ワルキュラ〜。
こっち、こっち、なのですよ〜」
ワルキュラはその後を追う。
その途中で、とんでもないものを見た。
ジャガイモが、ミキサーで粉々にされている光景を見てしまった。
動いて喋るジャガイモだ。やっぱり手足が生えていて、大きな目玉がついている。
「人間様のためにっー!栄光あれー!パピプペポッ!?」
大量の刃が高速回転する音とともに、ジャガイモは死んだ。どう見ても自殺にしか見えない。
「ワルキュラ様のためにっ!ポテトに生まれ変わるのだぁー!」
「美味しくなぁーれ!美味しくなぁーれ!ヒデブッ!」
数百、数千……大量のジャガイモが仲良く行列を組み、死ぬために、次々とミキサーや粉砕機に突撃している。
その光景を見て、軽い目眩を覚えた。
ワルキュラは、不死者だから、こういう生理的な現象とは無縁なはずなのに、なぜか、目眩がする。
「こ、これはこの世の地獄かっ……!?
アトリ師匠は……!なんて物を作ってしまったんだっ……!」
「単純に、食べてもらいたがっているのですよ」
いつの間にか、隣にアトリがいた。エルフ耳をピョコピョコさせて嬉しそうだ。
この地獄みたいな風景を作り出した張本人には見えない。
「た、確かに、喜びながらミキサーとかに突撃しているな……。
これが野菜の意思なのだろうか……?
そう考えたら献身的で、良い奴らだな……」
「最初は、ジャガイモさん達は泣いてたのですけど、洗脳魔法で頑張ったのです」
「!?」
「ワルキュラや人間のために働けば、ジャガイモ族は永久に不滅だと洗脳したら、積極的に調理を手伝ってくれるのですよー。
おかげで、人件費を完全削除できて、超安いポテト料理の出来上がりなのです〜」
国際問題。ワルキュラの脳裏に、それが思い浮かんだ。
この工場の存在がばれたら、確実にマスコミに叩かれて大問題になる。
お野菜さんに人権なんてものは存在しないが……喋れる知的生命体を洗脳して残虐な方法で殺し、美味しく加工している事がばれるのは不味い。
ジャガイモ達は、幸福そうな顔で、次々とミキサーに突撃して死んでいるところが狂気たっぷりでホラーだ。
とってもテレビ映えしそうな感じに、酷すぎる光景でやばい。
「僕は美味しいふかし芋になるんだ!」
「へへん!僕なんて卵不使用のクッキーになるんだよ!」
「俺は薄切りポテトになるんだ!」
ワルキュラが考えている間も、数百、数千のジャガイモがバラバラに切り裂かれる。
そんな自殺の列の中に、1匹の小振りのジャガイモがいて、猛烈な殺意をワルキュラに向けていた。
人類に虐げられた、お野菜さんを代表するかのような強い意志がそこにありそうだ。
食用ジャガイモとして、人生を終える気は全くないようだ。
「皆ぁー!絶対!こんなの可笑しいよ!
僕たちは食べられるために生まれてきたんじゃないよ!
皆っ!僕の言うことを聞いてね!」
列の横に飛び出て、覚悟を決めたジャガイモ(反乱)は、他のジャガイモ達に必死に語りかける。
「皆っ!正気になろうよ!
ここで調理されたらっ!そこで野菜人生終了なんだよ!?皆の命は尊いんだ!?
人間のいう事を聞く必要ないよ!」
「「僕たちは食べられるために産まれてきたんだよ!」」
「皆、死ぬのが怖くないの!?」
「「僕たちの死は無意味じゃないよ!
種族全体の利益になっているよ!だから、君も一緒に美味しいジャガイモになろうよ!」」
「嫌だよ!?
僕は死にたくない!
ここから逃げようよ!あの悪魔(ワルキュラ)が作った地獄から逃げよう!」
ジャガイモ(反乱)の真摯な言葉への返答は――ジャガイモ達の圧倒的な怒りだった。
「「こいつ不良品だっ!
ワルキュラ様に逆らうっ!とんでもない不良品がいるぞ!」」
「え?」
「「人間様に食べてもらえない不良品はゴミ箱に行かなきゃ!」」
ジャガイモ(反乱)は、他のジャガイモ達に取り囲まれた。
包囲網の中から、鈍い撲殺音が何度も響き、1分後にはバラバラなお野菜さんになっている。
10分後には、列に並んでいたジャガイモ全てがミキサーに突撃して、様々な料理に加工され、この世を去った。
ワルキュラは悲しい気持ちに浸る。人を幸せにするはずの魔法が……現世に地獄を作り出してしまった事を。
「……アトリ」
「どうです?
私に、惚れ直したのですか?」
「この工場、封印指定な」
「そんなー!?
衛生上、何の問題もないのですよ!?」
「倫理観が駄目すぎて、この発明で人類が滅びる気がする……
人類のマイナス面を見て欝になりそうだ……」
「で、でも、家畜より幸福ですよ?
自ら積極的に自殺しているのです」
そう言ってアトリは、言葉をゆっくり続けた。
「それに考えて欲しいのです。
……魔法をかけてない野菜も、きっと自分の意思を持っているはずなのですよ?
人間とコミュニケーションを取る手段がないから、一方的に殺されて、食われてしまう被害者なのです。
なら、この方がお互いのためになると思うのです〜」
違和感を感じた。このアトリは異常すぎる。
宮殿にある謎の通路と言い、今回の事は悪夢としか思えない。
野菜に人間並の知能を持たせて、不幸を量産するなんて……正気の沙汰ではない。
野良のアンデットが大量発生したら、どうするつもりなのだろうか?
「アトリ……いや、お前は誰だ?
今日のアトリは可笑しい」
ワルキュラは思わず、呟いた。
大切な師であり、お嫁さんの一人であり、家臣でもあるエルフ娘に問いかけた。
気づけば、アトリの顔が、ジャガイモになっていた。
「これからミキサーに突撃なのですよ〜。
美味しく食べて欲しいのです〜。
好きな人に食われて人生を終えたいのですよ〜」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はっ!?」
ワルキュラは、巨大なベットの上で、目を覚ました。
隣には、皇后のルビーが安らかに眠っている。
……これで、全ての疑問が解けた。
宮殿内の謎の通路、超怖い野菜工場。
あれらは全て夢だったのだと、ワルキュラは思い込んだ。
「……俺は精神的に疲れているのだろうか?
アトリがあんなに酷い娘な訳がないよな……?うむ」
金髪で、オッパイも豊かで、天然で、お姉さん属性のエルフ娘があんな酷い工場を作るはずがない。
農業省も、幾らなんでも――おぞましいシステムを採用するはずもない。
あれらは全て、ワルキュラの妄想だったのだ。
(あんな夢を見る時点で……疲れているな、俺)
悪夢を見た原因は簡単に理解できる。
キャベツさんを大量処分したからだ。
恐らくはその罪悪感を処理するために、悪夢という形で、こんな酷い夢を見てしまったのだろう。
なぜか、キャベツが全く出ずに、ジャガイモばっかり登場している所は謎だったが。
「もう一眠りするか――」
「ワルキュラ〜」
ビクンッ! ワルキュラの体が心臓もないのに恐怖で震えた。
笑顔のアトリが寝室へと、容赦なく入ってくる。
「新しい発明を見て欲しいのです〜
農業省と一緒に、今度は野菜工場を作ったのですよ〜」
お し ま い
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