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シルバーは、人間の村を空中から見下ろした。
弓矢が届かない位置に滞空し、村中にいる人間(ハムスターマン)を見つめる。
動物の皮を使った衣服を着ていて弓矢で武装している。、矢をいくつもショタ妖精めがけて放ってくるが、やはり届かない。
ここで、一番の問題なのは――
『人間(ハムスターマン)の数が、明らかに3000を通り越している件』
『妖精さんと戦争するために、かなり前から、援軍を募っていたんじゃね?』
ハムスターマンの数が、明らかに多すぎた。
後に、消し飛んだ死体を骸骨戦士に数えさせたが、この場には1万匹を越すハムスターマンが勢ぞろいしている。
しかし、物量はあっても、装備を揃える事に失敗しているから、空を飛ぶ妖精に対して無力なように見えた。
シルバーはネット通販から、細長い拡声器を購入、降伏勧告を行う。
「おーい!俺はシルバーだ!
お前らぁー!レンタルした道具を借りたままパクるのはやめろぉー!
今なら、利用料金を1年間、倍にする程度の罪で済むぞー!
金がないなら借金すれば良い!俺が貸してやるぞー!利子は高いけどなー!」
『借金地獄に陥るけどな!』『俺は闇金で異世界無双する!』
返ってきた返答は――罵声。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?!!
亜人のクソチビの分際で、生意気なのぜぇぇぇぇ!!!
栄光ある人間様に向かって命令するんじゃないのぜ!
俺達のご先祖様のおかげでっ!お前らは生きている事を許されているのぜぇぇぇぇ!!
それを理解しているのぜぇぇぇぇぇぇ!?」
叫んだのは、身なりの良いハムスターマンだ。
立派な紅い鎧を着ていて、一人だけ目立つ格好をしている。顔がデップリ太っていてうざったい。
さすがのシルバーでも、以前、出会った事を覚えていた。備中鍬の宣伝の時に、一度だけ会話した事がある。
「確か……この村の指導者だったけ?
えと、名前は?」
『ちょwwおまwwww忘れるなよwwww』
『なんて失礼すぎるww交渉wwww』
「ドン・アドルフなのぜ!
下等な亜人は、こんな事も分からないのぜ?
以前、自己紹介したはずなのぜ!
無駄に長生きしすぎて、頭が、脳みそがないクラゲみたいになっているのぜ?ゲラゲラゲラ!
もう、早く死んだ方がいいのぜ!」
「じゃ、ドンなんとか。
さっさと備中鍬のレンタル代金払えー。
払わないと、村を粉々に吹き飛ばすぞー!
あとで後悔しても知らんぞー!交渉を拒絶してからが本当の地獄だぁー!」
『とんでもない説得力』
『妖精さん、躊躇なく爆弾投げるもんな……』
シルバーの警告に、ドンはますます顔を真っ赤にして怒り、罵声を浴びせてきた。
「無視するんじゃないのぜぇぇぇ!!!
空を飛べるからって、調子に乗るのもいい加減にするのぜぇぇぇぇ!!
亜人は、俺達、人間のために存在するっ!下等生物なのぜ!
さっさと自害するのぜ!これは人間様の命令なのぜ!
村の周りに布設した、怖い物体を除去するのぜぇぇぇぇ!!」
「返さないと、村を爆破するぞー!
子供達が不幸になってもいいのかー!」
「元はといえばっ!お前のせいで、俺らの生活が破綻したのぜぇぇぇぇ!!!」
「はっ?」 シルバーは呆けた声をあげた。
「お前らの村がっ!
安い鉄を使って!
鍬を量産したせいでっ!鉄の相場が崩壊して俺らが生活できなくなったのぜ!
だから、これくらいの事はやっても良いのぜ!
それが分かったら!自害するのぜ!これは命令なのぜ!」
『なぜ、鉄の相場が下がるwwwww』
『たった10トンで相場が崩壊だとっ……!?』
『妖精さん……明らかにこれ、口からデマカセだぞ……。
いくらなんでも、たった10トンの鉄で相場が崩壊するのはありえない事だ……』
現代子なシルバーにも、ドンの発言は明らかな嘘のように思えた。
地球の17世紀初頭の戦争だって、一回の戦いで65トンくらい金属資源を砲弾に変えて、撃ちまくっているのだ。
たかだが10トンくらいで、相場が崩壊するはずがない。
(どうするかな……?
穏便に話を終わらせる方法が思いつかないし、ドンの発言を肯定して、仕事を紹介すればいいか……?)
ショタ妖精の心は決まった。
さすがに豚人間以外も殺しまくったら、ガチの恐怖政治になりそうだから、それを避けたかった。
一応、ネットの皆からの寄付で、異世界生活が成り立っているだけに、理不尽な虐殺は許されない。
シルバーは地上にいるドンめがけて、交渉を再開する。
「だったら、俺の所で雇用してやるよ!
それなら問題ないだろ!賃金は応相談な!」
「はぁぁぁぁぁぁ!?
亜人の分際で、俺らを雇用する!?
何様のつもりなのぜぇぇぇぇ!!
下賤な下等生物の分際で、言いたい放題言うんじゃないのぜぇぇぇぇ!!
お前らの薄汚い邪悪な先祖を殺さなかった、礼を忘れたのぜぇぇぇぇぇ!?」
「いや、どうせ嘘だろうけど、俺のせいで……お前らは生活できないんだろう?
なら、俺の所に就職すれば無問題だろ?
戦うより、そっちの方がお互いに得だと思うんだが?血を見たら、もう後戻りできないし……」
『妖精さん、ご先祖様を馬鹿にされてもスルーしているわ』
『そういえば、妖精さんの両親も妖精なん?』
『きっと、美少女、美少年カップルだお』
しかし、シルバーの穏便に終わらせようとする努力は実らない。
ハムスターマンは、過剰すぎる兵力を持っているし、最初から有利な条件を勝ち取れるまで、戦争する気満々だ。
「こっちは1万人もいるのぜっ!
お前らの集落よりも物量が遥かに上っ!なのぜっ!
正面から戦えば、俺達が圧勝するのぜ!
むしろ、製鉄技術を寄越すのはっ!お前らの方なのぜぇぇぇ!!
理解したら、さっさとドワーフどもを寄越すのぜ!
以前みたいにっ!ミカドワを徹底的に扱き使ってやるのぜ!今度は逃げられないように足を切断してやるのぜ!
再生した傍から、切断しまくって後悔させてやるのぜぇぇぇ!!」
「うわぁ……猟奇趣味?
ダイナマイトを使いたくなってきた」
『跳躍地雷に包囲されて、骸骨軍団に二重包囲されて詰んでいる状況で、このセリフ』
『話すだけ無駄と思うのは何故だろうか……?交渉は難しいな』
この瞬間、ドンの言葉のせいで、シルバーの脳裏に、ミカドワの傷だらけの小さな背中が思い浮かんだ。
〜〜〜〜
「アタイは、あいつらに許せないくらい深い恨みがあるんだ。
これ以上は……話したくないね。人間どもの話をするだけでイラつくよ。
あと、そこのお前達!
さっきから覗いているのは知っているんだよ!」
〜〜〜〜
真っ赤なポニーテールが似合う、彼女の辛い過去を知れるチャンスだと理解して――
「……ミカドワって誰だっけ? 」 ショタ妖精はカマかけを行った。
『妖精さん!?合法ロリの裸を覗いたのに忘れたの!?』
『若いのに認知症か!?』
ドンは大笑いしながら、シルバーの期待に応える。
「ミカドワはっ!この村の奴隷だったのぜ!毎日たくさん躾をしてやったのぜ!
ミカドワの恋人の手足を引き裂いて、川に捨てて、二度と逆らえないように躾ってやったのに……許せない事にっ!反乱をっ!起こしてっ!他のドワーフ達と一緒に逃げてしまったのぜ!
俺様は亜人どもに賠償と奴隷を要求するのぜぇぇぇ!!」
『ロリドワーフを虐めただとっ……!』
『妖精さん、スケさん、カクさん、この鼠を殺っちゃいなさい!』
『ミカドワたんが恨んでいるのは、恋人を殺されたからだお?』
ネットの皆と同じ事を、シルバーは思った。
ハムスターマンの非道に嫌悪感を感じて、ダイナマイトで吹き飛ばしてやりたくなる。
だが、ここで激怒して大量虐殺をやるのは、君主としてはダメだろうと自制し、対話を健気に再開するのだった。
「奴隷制度か……俺の所も、生活に困った連中を保護するために、奴隷制度やっているけどさ。
無意味に虐めるのは、嫁が禁止しているんだ(体の傷はすぐ治るが、心に深い傷を負ったら、労働効率が悪くなって不経済的な意味で)」
「とんだ甘ちゃんなのぜ!
奴隷は、毎日、殴ったり、指を切断したり、剣で刺さないと分からないのぜ!
これだから、亜人は格下すぎる生き物なのぜ!
人間様を尊敬して見習うと良いのぜ!ゲラゲラゲラッ!」
「……なぁ、ドン。
お前じゃ話にならない。
以前、出会った時にいた穏健な奴らを出してくれないか?
確か名前はアリ――」
「あいつらは、お前が帰った後にっ!拷問してっ!今じゃ肥溜めの中にいるのぜぇぇ!!
亜人に優しくしようとするゴミはっ!ゴミらしく扱ってやったのぜぇぇぇ!!
最後のセリフは、〈生きていてすいません〉だったのぜ!」
ひどい落胆を、シルバーは感じた。
もう、おしまいだ。交渉を進展させる方法が全く見当たらない。
ここで引き下がったら、プラチナが怒るし、せっかく作った国の支配力がゼロになって、全部がパァーだ。
「……こいつと会話していると、うん。
紛争地帯で和平を模索している連中みたいな感じに、俺、苦労している気がする……。
現実で紛争解決ってどうすればいいんだっけ?」
『圧倒的な武力で叩き潰す』
『利権を与えて武装解除がテンプレだお』
「はぁ、どうすればいいのやら」
ショタ妖精は、途方に暮れた。
仮に、口先だけの交渉が終わっても全く安心できない。ハムスターマンなら、亜人とした約束はすぐに破りそうだ
交渉は、お互いに最低限の信頼関係があってこそ成り立つ。
『ハムスターが大きくなった結果』
『ただのブザイクな動物だった件』
拡声器メガホン(200円
なお、ラッパの形の道具だったら、音を拡声する効果があるから、電気なくても音は大きくできる。
消費総額151万
100円☛ 151万300円
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