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9話「ソ連軍の皆ー!逃げてぇー!」(写真)
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ルーデル大佐

■戦車キラー■

「ルーデル大佐。君は何が好きかね?」

ナポレオンはルーデルに大佐の階級を与えた後、参謀本部の個室で二人っきりになって話しかけた。
ルーデルは迷いのない笑顔で

「戦車をぶっ壊すのが大好きです!特にソ連戦車を破壊すると最高です!ソ連戦車を一台見ると20台くらいウジャウジャ湧いてくるから壊したくなります!」
「……そんなに爽快なのかね?」
「はい!戦車をぶっ壊すのは三度の飯よりも大好きです!現実で戦車ぶっ壊すために、出撃回数が3100……いえ、2530回になりました!」 
ルーデルは公式記録に残らない無断出撃を含めた出撃回数をあっさり切り捨てた。
「そうか。もし、君が良ければ、空軍司令官の地位をプレゼントする――」
「要りません!私はソ連軍の戦車を破壊するためにここに来たのです!」

ルーデルがすっぱりと言い放った。
ナポレオンはその反応に苦笑しながら――こいつ、本物のマジキチ戦闘狂だと思った。
軍での地位よりも戦車ぶっ壊したいから、フランス空軍に士官しただけだ。
ルーデルの伝説は現実の21世紀で聞いた事がある。
ナチスドイツの指導者ヒトラー総統からの「君は失ってはいけない英雄だ!お願いだから地上勤務してくれー!」という願いを拒否ってルーデルは「私のために作った専用勲章(黄金・柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字勲章)を貰うから二度とそのような事は言わないでください!ちょっとソ連戦車破壊してくる!」片足失った後もソ連軍を爆撃しまくった。
安穏に生きる事よりも、戦場で敵に最大限の損害を与えて死ぬ事を選ぶ軍神。
フランス大陸軍にもそれなりに居る種類の人間だ。

「ルーデル大佐。そんな君だからこそ司令官の地位に就いて欲しいのだ」
「ですが、司令官の地位についたらソ連軍を自分の手で攻撃できません!」
「……正直に言おう。現状のフランス空軍ではプレデターを効率良く運用する事が出来ない。せいぜい空に飛ばした事があるのは偵察用の熱気球程度なのだ。君に司令官をやってもらわないと困る」
「はっ?」
「プレデターを無尽蔵に低コストで量産する方法はあるが、扱うノウハウがない。プレデターがどうやって動いているのか理解している技術者も皆無だ」
「……」
「私が理解しているのは、プレデターを扱うにはセンサー員と操縦員が1人づつ必要だという事だけだ。本来なら修理と補給のために整備員が大量に必要なのだろうが――プレデターは無尽蔵に量産できるから幾らでも前線で消費してくれても構わない。むしろ、プレデター本体を操縦可能なミサイルとでも思ってくれ」
「……陛下、なぜ出会ったばかりの私をそこまで優遇なされるので?もしも私が裏切ったら酷い事になりますが?」

歪すぎるフランス空軍の実態に、ルーデルは疑問を持ちながらも――今一番知りたい事を聞いた。
ナポレオンは青い瞳でルーデルをじっくり見た後に

「私はルーデル大佐の事をよく知っている。第二次世界大戦のスーパーヒーローにして、戦史に残る最強の爆撃王だという事を。ソ連人民最大の敵となった軍神である事を知っている」
「……」
「どんな時でも諦めず、爆撃機が撃墜されても敵地から逃げ延び、爆撃機に機関銃つけて足を遅くしたのに何故か第二次世界大戦を最後まで生き抜き、戦後に実業家として大成功して20最年下の妻と結婚し、ギャルゲーのような人生を終えた勝ち組である事を知っている」
「……」
「そんな君が、人類を平等に不幸にする――ソ連の利益になる行動をする訳がない」
「陛下!」

感動で震えたルーデルがナポレオンの両手をガシッと掴んだ。
尊敬する相手にこれほど知られているのは最高の気分だ。
頼りにされ活躍するための地位と兵器も与えてくれた。
……ナポレオンはこうやって人を誑し込む天才。
場合によってはもっと詳細な過去設定をちゃんと暗記してから、人を誑し込む。
ルーデルは魔法の鞄から、急いで牛乳瓶を取り出して、ナポレオンの両手に載せて

「ナポレオン陛下!私はあなたに忠誠を捧げます!このゴージャス牛乳を受け取ってください!」
「ゴージャス牛乳?」
「ダンジョンのモンスターからドロップするアイテムです!世界一美味しい牛乳だと言っても過言ではありません!」
「その好意受けとったぞ!」

ナポレオンは牛乳瓶の蓋を取って、日本人らしく片手を腰に当てて牛乳をゴクゴク飲んでみた。
牛乳のトロリとした味わい。
濃厚な甘み。
全身から溢れるパワー。
自然の力を凝縮したかのようなありえない牛乳だった。
こんなに美味しい牛乳を飲んだら、他の牛乳が水で薄めた安物としか思えなくなるレベル。
ナポレオンは感動して叫んだ。

「これは美味いぞぉー!!ルーデル大佐の好意は今受け取った!では最初の命令を言おう――プレデターを使い、ソ連軍の足を壊せ」
「足?」
「車両と航空機の事だ。現状ではあれらが一番厄介だから優先して攻撃してもらいたい。人間への攻撃はしなくて良い。車両を徹底的に破壊すれば補給ができなくなって自滅するはずだ」
「なるほど遠征軍の兵站を壊して、自壊させる訳ですな」

ナポレオンの考えを理解したルーデルは敬礼をして

「了解しました!陛下!」

世界を真っ赤な大魔王(スターリン)から守るための戦いにルーデル参戦。
ナポレオンは冷静に振舞っていたが、内心で――ソ連が保有する核兵器にどう対処すればいいのか悩んでいた。
核兵器は究極の広範囲攻撃兵器。日本列島なら1メガトン級の核兵器4発で焦土化して滅亡だ。
現実なら通常の戦争で核兵器を使うなんて事はありえない。(危機を感じた世界各国が核兵器開発を進めて、核戦争で世界滅亡するから)
しかし、この世界で核兵器を持つ国はソ連だけ。
核兵器で恫喝外交でもされたら、どんなに酷い要求でも飲むしかない。





■19世紀の軍隊はしょぼいよ■

「フランス大陸軍は動かさなくて良いのですか?陛下」

ルーデル大佐が部屋を出て行った後、外で待機していたベルティエ参謀長が部屋に入りナポレオンに話しかけた。
ベルティエ参謀長は相変わらず不幸そうな顔をしている。
ナポレオンは、部屋をグルグル歩き回りながら答えた。

「ベルティエ参謀長。君は兎と亀が競争したらどっちが勝つと思う?」
「……当然、足が早い兎です」
「それが答えだ。武器の性能差以前に、フランス大陸軍はソ連軍と違って足が遅すぎる」
「フランス大陸軍はヨーロッパ最速の行軍速度です。一日に平均30kmは移動できます」
「機械の車は大量の荷物を搭載して時速60km は余裕で出せる。交代しながら無茶をすれば1日に1200kmほど移動できるはずだ。40倍の機動力を持つ相手に勝てると思うのかね?」

ベルティエ参謀長は絶句した。
早すぎて別次元だと――ベルティエ参謀長の周りをグルグル歩きながら、ナポレオンは会話を続けた。
歩きながらの方が、頭が良く動く。

「フランス大陸軍の売りは、敵地で物資を得ることを前提にした機動力と簡単に補充できる兵士達にある。だが、ソ連軍の機動力の方が遥かに上。補充できる兵士達の数も上。例え、同じ武器をつかって戦ったと仮定しても、フランス大陸軍の歩兵がソ連軍に挑むのは絶望的だ。恐らく――機動力の差で各個撃破されて一方的に私達は敗北するだろう」
「……この戦、勝てますか?」 ストレスでベルティエ参謀長のお腹が痛くなった。
「勝てる。プレデターがあれば勝てる。空を高速で飛ぶ兵器の利点を考えてみろ。ヨーロッパの複雑な地形を無視して、3000km先を爆撃できる。これで負けたら私は無能だ」
「……」ベルティエ参謀長が何か言いたそうな顔をしている。
「突然黙ってどうした?」
「いえ、陛下は新しい道具を戦場で運用することを嫌うお方だと今まで勘違いしてました」
「そういえば、私は蒸気船・通信機・機雷を見ても採用しなかったな……ん?通信機?」

ナポレオンは気づいた。
軍勢の機動力とかそれ以前に、連絡方法が
ソ連――通信機の電波で、超迅速に遠く離れた味方と連絡。
19世紀のフランス――手旗信号や伝令兵を送る超遅い連絡方法。
情報の伝達スピードの差で、ソ連軍に完全に負けている。
戦争は情報戦を制した者が勝利するという歴史の法則があり、迅速に連絡方法を通信機に変更しないと駄目だなと思った。
だから、次に打つ一手は通信機を含めたハイテクな道具と同時に、運用ノウハウが手に入る一石二鳥の手――イギリスとの和平・同盟交渉。

「……ところでベルティエ参謀長、タレイラン外務大臣に会いたいのだが今どこにいる?イギリスとの交渉を任せたいのだが」
「あ、この手紙を陛下に渡すのを空襲の騒ぎで忘れてました。タレイランからです」 

ベルティエ参謀長がポケットから手紙を取り出した。
ナポレオンは封を開けて、中身を見た。
【外務大臣を辞職します。私の忠告を聞かない陛下にはついていけません by タレイラン】
綺麗な日本語でそのような内容が書かれていた。
タレイラン――史実のフランスを2世紀に渡り、滅亡から救った超時空外交官。
ナポレオンの切り札中の切り札が辞職する現実。
ナポレオンは怒って、手紙をビリビリに破った。

「何だ?これはぁー!?」
「辞職届ですな」
「なぜ辞職する!?」
「私にも分かりません」
「さっさとタレイランを捕まえて、私の元へと連れてこい!イギリスとの和平交渉を成功させて、フランスに協力させるために不可欠な人材だぞ!」
「分かりました。タレイランを捕まえるように命令して来ます!」 

ストレスで大量の汗を流したベルティエ参謀長は、すぐにその場で書類を作成して部屋の外へと出て行った。
その背を見送ったナポレオンは、前世のタレイランと自分の関係を頭の中で思い出して、何が原因なのか考えた。

序盤のタレイラン「将軍ナポレオンを皇帝ナポレオンにしたのはこの私だ!全ての黒幕!」
中盤のタレイラン「陛下!ヨーロッパ中を敵に回して戦争はやめてください!今は他国と協調しないと生存できない時代ですぞ!」
終盤のタレイラン「もうナポレオンなんて要らん!フランス存続のために皇帝をやめさせる!!外国に機密を流したった!」
最後のタレイラン「ずっと俺のターン!全ヨーロッパの怒りをナポレオンに集中させて、フランスの滅亡イベントを回避する!これでチェックメイトだ!」

今は時期的に考えて、中盤のタレイランのはず。
まだ、取り返しが付く頃だ。
なのに、なぜかタレイランは外務大臣を辞職した。
ナポレオンには訳が分からない。
タレイランはフランスの存続のためならば――時空を超えて外交遺産でフランスを救う怪物政治家だから逃げるはずないのになぜこうなった。
 




■――リアル超時空外交官の歴史がまた1ページ

あとがき


ナポレオン(´・ω・`) ポナパルト一族の死亡要因が胃癌だけに、胃が痛いよう。



歴史のテンプレ】 特権階級から特権を手放す方法は、問答無用で皆殺しにするか、強制的に特権を取り上げるくらいしか方法がない。 例 フランスのブルボン朝 18世紀
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アメリカ「18世紀末までやっていた娯楽行事『四つ裂きの刑』がひどすぎる件。死に物狂いでアメリカ独立戦争やるのも納得」 18世紀
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【歴史のテンプレ】 長期間、同じ場所に首都を置くと腐敗の温床になる。 例、韓国、ローマ帝国
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【歴史のテンプレ】弱い犬ほど、自分を強く見せたがる 【例、北朝鮮】
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適当な将軍に任せようかと思ったけど、ルーデルの前世を確認して、本職の人間に任せた方がいいという事でルーデルに空軍全部任せる。
ルーデルに空軍の事を任せて、
●なぽれおん「速さは最強だ。速さこそ全てだ。だから車両ぶっ壊せ」











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