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17話目

15話
  経済支配-2 「戦勝祝い市場」  


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ワルキュラ軍 1万  
 29万人が負傷して退場

ピィザ軍・寝返りセイルン貴族軍 34万5000  
本隊13万5000 + 別働隊21万


気絶から目を覚ましたセイルン王は、ひとり孤独に宮殿の中庭を歩いてた。
黒髪に白髪が大量に増え、ここ一日で老け込んだように見える。

「ワ、ワシはどないすればっ……!?」

これから先の人生をどうすればいいのか?
セイルンは、人間なら誰でも経験する人生の大問題とやらにブチ当たっている。
一応、王という地位だけは保証されているのだ。
財産はほぼ全部没収されたとはいえ、セイルン王が身につけている豪華な品の数々は、貧民では一生購入できない代物。
ワルキュラ陣営内で出世して、給料貰えば少しの贅沢くらいはできそうだ……ストレスで死ぬ方が早そうだが。

「お、お腹が痛くなってきたっ……!
と、とりあえずっ……ワシ専用の病院に行こうっ……」

環境の急激な変化に耐え切れず、胃が痛くなりすぎたセイルン。彼は専用の病院へ行く事にした。
専用病院は、王族の他には、他国から来訪した国家首脳級くらいしかご利用できない特別施設さん。
北朝鮮にも似たようなもんがあるから、異世界にだって、きっとあるんだい。
どれだけ栄光を極めようと、健康を維持できないと、不幸としか感じないのが人間だし。

「馬車を用意せーい!
ワシは病院に行きたい!」

周りに響くように声を荒げたセイルン。昨日までなら、すぐに使用人がやってきて、どんな命令でも従ってくれた。
だが、不思議な事に誰も来ない。
いや、一応、来る者はいた。白くてカルシスムたっぷりの骨。
ワルキュラの配下で一番数多くいる骸骨(スケルトン)だった。
死人の癖に、お医者さんである事を示す白衣を着ているから余計に不気味だ。

「病人がいるんだぞ!静かにしろ!
骨折したらどうするんだ!お前の骨を治療用に抜き取ってやろうか!」

骸骨ゆえの怖すぎる大迫力。冗談抜きで命を取られる。そう理解したセイルンは――

「……ひぃぃぃぃぃぃっ!!
すいませんでしたぁぁぁぁ!!
ワシは病院行きたいだけなんですぅぅぅっ!!!」

情けない悲鳴をあげ、駝鳥のごとく、宮殿から逃げ出した。
医者な骸骨は、そんなセイルンの後ろ姿を見て小さく呟く。

「おい……病院はここだぞ?
まぁ、いいか。あんなに元気良く動けるなら、医者は要らんだろうな。
生きたいという気持ちに満ちている人間は実に良い……」

長年、セイルン王国の政治の中枢だった巨大宮殿の一部は、病院さんになっていた。
王族+貴族+彼らの世話をする使用人を同時に宿泊できる機能を備えているから、ベットの数はたっぷりある。
入院中に死んでもご安心。
骸骨(スケルトン)に借金して転生できるサービス付き。
〜〜〜〜〜〜


宮殿から逃げ出したセイルンは、専用病院までの長い道のりを歩く事にした。
昨日までは、外国製の専用馬車で楽に到達できる道のりだったが、徒歩で病院に行くとなると時間がかかる。

(こ、こんな事になるならっ……!
宮殿の近くに病院作れば良かったっ……!)

人生とは後悔の連続。栄華を極めた独裁者だろうがそこは変わらない。
俯いたままセイルンは道を進み、大通りへと出た。そこには――数万を超える人ごみが何故かあり、賑やかな市場を形成している。
店には無数の新鮮な魚が並び、ダークエルフや骸骨達が『安いよ〜!安いよ〜』という掛け声とともに、異常なくらいに安い値段で実際に販売していた。
平和な時の相場の五分の一ほどの価格だ。

(はっ?なんだこれはっ……?)

セイルンは激しい違和感を感じた。
今、この首都カイロンはピィザ軍に半包囲され、河川を支配されている。
つまり、物の流れが停止している。食料などの物資は篭城戦をやる時に、軍の力で民衆から巻き上げた。
だから市場を開けるはずがないのだ。
仮に市場を開いて、食料を売ったとしても……安い値段で売る事そのものがありえない。
食料は必ず消費するから需要が極端に高く、供給が少ない現状だと、とんでもない値段の高級品になってしまうからだ。
崩壊したソ連を参考にすると、少なくとも食料品の値段は11倍ほど上がるはずである。

(ワ、ワシの常識が崩壊するっ……?)

しかし現実は、アユに似た川魚がズラリっと店に並び、次々と焼き魚さんへと変身していく。
香ばしくて美味しそうな良い匂いだ。
新鮮な川魚は、カイロンでも高値で取引されるだけあって価値が高い。
鮮度が高い内に、消費者の元へと運搬しないといけないからスピードって奴が求められるからだ。
江戸時代の日本でも、川魚(アユ)を運ぶ業者は高給取りだったから間違いない。
現代の日本の観光地でも、アユの塩焼きは五百円くらいする高級品だ。

「ワルキュラ様がピィザ軍に圧勝なさったわ!
人間達も祝いなさい!
安い値段で買えるのはワルキュラ様のおかげよ!」

可憐で鋭い声が聞こえた。セイルンは顔を上に向ける。
三階建ての集合住宅の屋根に、黒いドレスを来た銀髪の吸血鬼が仁王立ちしている。
ルビーの双子の姉プラチナだ。紅い瞳が人間を完全に見下している。

(胸が小さい方の化物かっ……!こ、殺されるっ……!)

今日の昼頃に、セイルンに強烈な印象を植え付けた娘だ。プラチナがセイルンの馬鹿息子を蹴り飛ばして、魚の餌……もとい『空のお星様』へと変えたのは、トラウマとして記憶に残っている。

(あわわわわわわっ……!に、逃げようっ……!
ここにいたら殺されるっ……!)

「骨や金属はワルキュラ軍で買い取るわ!
だからっ!じゃんじゃんっ持ってきなさいっ!
美味しいお魚さんと交換よ!
アヘン紙幣と交換して上げてもいいわ!」

その声に小さな人影が集まる。みすぼらしい身なりの孤児達だ。
彼らは手に、様々な動物の骨を持っている。

「お姉ちゃんっー。骨持ってきたよー」
「家に薪がないから焼き魚の方を頂戴〜」

次々と骨が、焼き魚と交換されていく。
その度に骸骨やプラチナがわざとらしい口調で

「大勝利記念の魚だ!ワルキュラ様に感謝して美味しく食べろよ!」
「圧勝したワルキュラ様へ感謝しなさい!
あの方に付いていけば、宇宙制覇も夢じゃないわ!」

単純に善意で焼き魚を、骨と交換している訳ではない。
これは国内向けの宣伝だ。『ワルキュラ様は民衆を食べさせる事ができる指導者ですよー』とアピールして、この事を民草の胃袋に刻みつけようと魚を渡しているのだ。
そして、戦争とは、序盤の勝敗が後の戦局を左右する事が多々あるから、それの宣伝もついでにやっている。
序盤の勝敗の重要性、読者には分かり辛いから……あえて例を上げるなら、日本とロシアが戦った日露戦争(1904年)。
ロシアが圧倒的に強大で絶望的、故に日本の勝率がほぼ0%。
だって日本の紙幣じゃ、外国の武器・弾薬を購入できない。戦時国債を市場で売りさばき、先進国の金を集めないと戦いにすらならない。

@ロシアの旅順艦隊がウラジオトスクに入った時点で、日本軍の海の兵站網が叩かれて敗北。超短期間で敵艦隊を一気に補足して壊滅させる必要がある。
A奉天にいるロシア軍だけで37万。日本の全戦力集めても25万そこらで物資も足りない。
B連続して勝利しても、ロシアにはまだまだ余力がある。
Cロシアは白人。日本人は黄色人種というマイナスすぎる人種差別要素

ひたすら勝てない要素だらけ。
だから世界は、当時の勝敗をこう判断した。
『うはww日本がロシアに勝利できる訳ないだろwwww
第二次世界大戦の日本VSアメリカ並に国力差があんぞwwww』

しかし、日本が序盤の戦いで勝利を収めた事で評価は一変する。

『え?日本が勝利した?
じゃ、戦時国債を購入してあげても良いかな?高金利で美味しいもんな』

こうして当時の日本は外国製の武器・弾薬を購入し、無数の奇跡を起こして、勝率ほぼ0%だった戦争に勝利した。
だからこそ、プラチナ達は序盤の勝利を大きく宣伝し……人間達に祝わせようとする。
ワルキュラ様が勝利したら良い事がありますよ。勝ち組陣営ですよ。利にさとい人間なら勝ち馬に乗らなきゃね?そう教え込む事で支持を得ようとしている。

(な、何を考えとるんだっ……化物どもっ……?
化物は骨を食べるのかっ……?)

だが、セイルンにはそれが分からない。
戦争の利益は特権階級が独占して、民衆には還元しない人だから、これの持つ効果が分からない。
この宣伝工作の果てにあるのは――『俺、こんなに支持されているんですよ』っていうワルキュラ政権の正当性の証明だ。
工作が最後まで進めば、セイルンは正当性を自動的に否定され、命すら危うい事に気づかない。
王国に住む9割の人間から見れば、セイルン王は圧政と弾圧の象徴。
民衆のガス抜きのために、広場で火炙りにされても可笑しくないのだ。
そもそも、王朝の権威が欲しいなら、セイルンの娘とワルキュラが結婚すれば良いだけだし。
民衆を飢えさせる王様に価値なんて存在しない。

(化物どもが考えている事はワシには分からんっ……ん?なんだあれは……?)

逃げようとしたセイルンの視線の先には、熱狂的な人間の群れが居た。手にワルキュラを模したアヘン紙幣を握っている。
更に人間の群れの先にいるのは――元気で若い人狼のお兄さん。

「さぁっ!張った張った!今回も楽しい戦争賭博の始まりだよ!
今回の賭けの対象はっ!カイロンの近くにいるピィザ軍が壊滅するのは何日後だっ!?
ピィザ王の生死に関わる配当レートは常に2倍設定だよ!さぁっ!張った!張った!」

戦争を賭けの対象にして遊んでいた。しかもワルキュラが勝利する事を前提にしている。
熱しやすい人間達は次々と紙幣を片手に、金を投じる。

「明日壊滅するのに十万アヘン!」
「三日後に勝利するのに五万アヘン!」
「ピィザ王の戦死に二万アヘンっ!」

戦争の娯楽化。さすがのセイルンといえども驚愕せざる負えなかった。
戦争に絶対はない。もしも、こんな賭博をやった後に敗北でもしたら……熱しやすい民衆の事だ。暴徒になって大暴れするだろう。
そんな博打は普通の為政者には出来ない。

(ワ、ワシの常識が通用しないっ……!
やっぱり最初に感じた予感は正しかったっ……!
戦争すら見世物にするっ……暗黒時代が始まるんだっ……あわわわわわっ……!)

さっきから、人間と人狼がやり取りしているアヘン紙幣も目に入る。
ワルキュラの骸骨顔が印刷された不思議な紙だ。日本語や英語で『タバコ代わりに燃やすな』と書かれてあるが、セイルンには読めない。

「アヘンっ……?
この紙切れで博打をしとるのかっ……?」

紙切れに、金としての価値があるとは思えなかった。
金属を使った硬貨なら、金属の価値+市場の信用で価値が発生するが、借用書でもない紙切れが価値を持つなんてセイルンの常識の範疇では想像できない事だ。
更に言えば『紙幣』は歴史的に見れば、現実の国々の死亡フラグだったりする。
政府は無駄使いする傾向にあり、紙幣を上限超えて無駄に発行して信用を地の底へと落とし、紙幣の価値を文字通り『紙切れ』へと変え、国家と王朝を崩壊させる事が多々ある。
だが、この場で一番可笑しいのは――

「なんで、人民どもはっ……これを金として使っておるのだっ……?
ワシが発行した硬貨(質の悪い)はどうなった……?」

一日も経過せずに、『紙切れ』が金として普及してしまっている現実。
どうやって、通貨に一番必要な『信用』を得たのか謎だった。
信用のない通貨、しかも紙切れなんてケツを拭く紙にしかならないはずなのに。
顔を真っ青にしてセイルンが戸惑っていると、人狼のお兄さんが話しかけてくる。

「お客さんっ!どうしたんだい?ボーッとして!」

「こ、この紙切れは一体っ……?」

「え?アヘン紙幣を知らないのかい?
その紙幣はね!たくさん貯めるとエルフに転生したり、骸骨になれるサービスを受けられるんでさっ!」

「エルフ……?」 首を傾げるセイルン。

「オイラみたいな不老で健康な種族になれるんでさぁ」

不老長寿。それは人類の永遠の夢。
権力者として栄華を極めた事があるセイルンは何度も思った事がある。
『この身が不滅の存在だったら、永遠に贅沢とハーレムやれて最高なのに』と。

(化物どもめっ……!人間が本当の意味で欲しがっている物を餌にしたなっ……!?)

アヘン紙幣という紙切れの上に乗せられた価値は『人類の永遠の夢』だった。
権力者で野心家であればあるほど、この甘い蜜には逆らえない。
だって人間は自己の死が怖くて怖くて仕方ないからこそ、宗教を作り上げ、死んだら天国行って処女とハーレムできますよと妄想設定を作り上げてきたのだ。

(ワシも欲しいっ……!不老の体っ……!
エルフになりたいっ……!
老いた体はもう嫌だっ……!若返って絶倫だった自分を取り戻したいっ……!)

だから、セイルンは人狼に聞いてしまった。
何処に行けば、不老の身体を貰えるのかと?

「あっちでさぁ」

人狼はニヤリッと笑って、とある方向を指し示してから

「よく見たら、お客さん。
良い品を持っているねぇ……アヘン紙幣と交換しないかい?
今なら高い値段で買ってあげますぜ?」

セイルンの持っている財産をほぼ全て『僅かな紙切れ』と交換してあげた。
見事なボッタクリだった。






たった百枚の一万アヘン紙幣とともに、人狼の示した先に急いで向かうセイルン。
彼は王様とは思えない、みすぼらしい格好になっている。

(不老の命っ……!もうすぐ手に入るっ……!)

たった百万アヘンそこらでは、エルフに転生するサービスは受けられないのだが、これは罠だ。
一度、不老の身体を得る現場を見てしまえば、人間の欲望的に止まる事はできない。
絶対に欲しいと思ったら、どんな無茶な事をしてでも得ようとするのが人間という生き物だからだ。
不老長寿欲しかった中国の始皇帝さんとか、騙されて水銀(もうどく)飲んじゃうくらいだし、人間にとって健康で老いない身体は千金、いや、『地球』に匹敵する価値がある。

(あれっ……この道は……?)

欲望に支配されたセイルンは、とある事に気がついた。
この道の先にあるのは、あるのは――

「ワシ専用病院がっ……!?
エルフに転生する専用施設になっている!?」

特別で専用な病院。
そこは細長いエルフ耳の女の子達が、ワイワイッ、ガヤガヤッ、明るく魔法を開発する研究所と化していた。

「エルフ転生はこっちなのです〜。転生料金は十億アヘンなのですよ〜」

料金が高額すぎたから、絶望したセイルンはアヘン紙幣を地面に落としてしまった。
今回のコメントをまとめたページ

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【小説家になろう】鍛冶屋「なろう世界での生産職は不遇職扱いな件!」
http://suliruku.blogspot.jp/2016/02/blog-post_25.html


日露戦争の記事
http://suliruku.futene.net/1uratop/Rekisimono/Rekisi_no_tenpure/25.html

 
ワルキュラ(´・ω・`)(もう・・・エルフに転生しようかな・・・
どうせLV0だし、ステータスダウンなんて気にしなくて良いよな・・・)


鳳凰院(´・ω・`)ボス戦やる前に転生したら、お前死ぬぞ!?

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